その日、朝から妻の様子がいつもと違った。
左の下腹部をしきりに摩っているのだ。
どうしたのと尋ねると、痛みがあるという。
何か悪い物でも食べたのだろうかと思ったが、もしそうならば、妻よりも食べている私の方が具合が悪くなっている筈である。
本人は「大丈夫だから」とは言うものの、午後になっても痛みは一向に治らない様子だった。
少し横になってみたらと勧め、ソファに寝かせたら、暫くして寝息を立て始めた。
このところ何かと忙しかったから、疲れから来たのかもしれない、とその時は思った。
小一時間ほど眠っただろうか。ソファから起き上がった妻に具合はどうかと尋ねたら、少し良くなったという。ただ、それでも痛みは消えてはいないようで、相変わらず下腹部を摩っている。
私はふと或ることが思い浮かび、妻に椅子に座るように指示すると、その背中をトントンと叩き始めた。特に左側を上から下へ向かって叩いて行くと、お腹の方へ痛みが響くという。
一方、右側を同様に試みると、こちらは響かないとのこと。
(腎臓かな。おそらく尿路に異常ありかも)
そう、私は思ったものの、そのことを口には出さなかった。
夕方になって二男夫婦と孫たちがやって来た。慌てて妻が対応しようとしたら、そこで激痛が走ったようで蹲ってしまった。
その日は休日で医療機関は休診だ。休日診療の病院を探し、電話を入れたが繋がらない。
「救急車を呼びましょう」と息子の嫁に言われ、迷わず119番へ電話する。
電話に出た消防署の方は、新型コロナウイルスのことを念頭に、色々と質問をしてくる。焦っているこちらとしては一刻も早くという気持ちを抑えながら、それらの質問へ冷静さを保ちながら答えていく。
そんな私の気持ちを知ってか「もう救急車は向かっています」と、受話器の向こうで言葉をかけてくれた。
それから救急車が到着するまでのわずかな時間、入院する事を予想して、とにかく必要な物をと準備する。すると遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた...
救急車が大好きな孫は、家の前に本物の救急車が止まったので大喜び。後日、ばあばが孫のために身体を張って救急車を呼んだという「都市伝説」に発展してしまったが、そのことはさておく。
救急車に乗り込んだ妻と私。隊員の方々から、これもまた様々な質問を受けるが、先の司令の方と同様に、例の流行病のことが念頭にある質問だとすぐに分かった。
受け入れ病院については、妻が年に一度検査で訪れている某大病院の診察券を持っていたことが決め手となり、病院側も大丈夫だとのことですぐに決まった。
私は救急車の窓のカーテンを少し開けると、家の窓にニコニコと嬉しそうな孫の顔を見つけた。その事を私の隣りに座り、辛そうにしている妻に告げるとその頬が少しだけ緩んだ。
それから3時間後、担当した医師から告げられたのは「尿管結石」。三大激痛の一つと言われる症状だ。
私がふと或ることを思いついたというのはこのことだった。
今から10年以上も前の話だが、私自身が同じ病を患ったからである。あの時の痛みは今でも忘れられない。思い出しただけでも脂汗が出て来そうだ。
さて、妻の入院は大事を取って数日と決まった。妻を病棟に見送り、長男に迎えに来てもらう。時刻はすでに午後9時半。
そういえば今日は何も食べていないことに気がついた。
寒風吹き晒す病院の外で、腹の虫の音を聞きながら、妻が不在の数日をどう過ごすか、そのことばかりを考えていた。
左の下腹部をしきりに摩っているのだ。
どうしたのと尋ねると、痛みがあるという。
何か悪い物でも食べたのだろうかと思ったが、もしそうならば、妻よりも食べている私の方が具合が悪くなっている筈である。
本人は「大丈夫だから」とは言うものの、午後になっても痛みは一向に治らない様子だった。
少し横になってみたらと勧め、ソファに寝かせたら、暫くして寝息を立て始めた。
このところ何かと忙しかったから、疲れから来たのかもしれない、とその時は思った。
小一時間ほど眠っただろうか。ソファから起き上がった妻に具合はどうかと尋ねたら、少し良くなったという。ただ、それでも痛みは消えてはいないようで、相変わらず下腹部を摩っている。
私はふと或ることが思い浮かび、妻に椅子に座るように指示すると、その背中をトントンと叩き始めた。特に左側を上から下へ向かって叩いて行くと、お腹の方へ痛みが響くという。
一方、右側を同様に試みると、こちらは響かないとのこと。
(腎臓かな。おそらく尿路に異常ありかも)
そう、私は思ったものの、そのことを口には出さなかった。
夕方になって二男夫婦と孫たちがやって来た。慌てて妻が対応しようとしたら、そこで激痛が走ったようで蹲ってしまった。
その日は休日で医療機関は休診だ。休日診療の病院を探し、電話を入れたが繋がらない。
「救急車を呼びましょう」と息子の嫁に言われ、迷わず119番へ電話する。
電話に出た消防署の方は、新型コロナウイルスのことを念頭に、色々と質問をしてくる。焦っているこちらとしては一刻も早くという気持ちを抑えながら、それらの質問へ冷静さを保ちながら答えていく。
そんな私の気持ちを知ってか「もう救急車は向かっています」と、受話器の向こうで言葉をかけてくれた。
それから救急車が到着するまでのわずかな時間、入院する事を予想して、とにかく必要な物をと準備する。すると遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた...
救急車が大好きな孫は、家の前に本物の救急車が止まったので大喜び。後日、ばあばが孫のために身体を張って救急車を呼んだという「都市伝説」に発展してしまったが、そのことはさておく。
救急車に乗り込んだ妻と私。隊員の方々から、これもまた様々な質問を受けるが、先の司令の方と同様に、例の流行病のことが念頭にある質問だとすぐに分かった。
受け入れ病院については、妻が年に一度検査で訪れている某大病院の診察券を持っていたことが決め手となり、病院側も大丈夫だとのことですぐに決まった。
私は救急車の窓のカーテンを少し開けると、家の窓にニコニコと嬉しそうな孫の顔を見つけた。その事を私の隣りに座り、辛そうにしている妻に告げるとその頬が少しだけ緩んだ。
それから3時間後、担当した医師から告げられたのは「尿管結石」。三大激痛の一つと言われる症状だ。
私がふと或ることを思いついたというのはこのことだった。
今から10年以上も前の話だが、私自身が同じ病を患ったからである。あの時の痛みは今でも忘れられない。思い出しただけでも脂汗が出て来そうだ。
さて、妻の入院は大事を取って数日と決まった。妻を病棟に見送り、長男に迎えに来てもらう。時刻はすでに午後9時半。
そういえば今日は何も食べていないことに気がついた。
寒風吹き晒す病院の外で、腹の虫の音を聞きながら、妻が不在の数日をどう過ごすか、そのことばかりを考えていた。
コメント
尿路結石は、本当に痛いそうです。
主人は2回もやりました。
石が飛び出してしまえば、嘘のように痛みは曳くそうですが…。
今の時期、入院できて幸いでした。
お大事に❣
お見舞い申し上げます。
あの激痛は尋常ではないらしいですね?幸いまだ未体験ですが、出来れば一生体験したくないです。奥様お辛かっだでしょうに。
直ぐ受けれてもらえて良かったですね!今はなかなか病院に搬送されるまで大変だそうです。診察券あって良かったです。
どうぞくれぐれもお大事になさってくださいね。
留守中のヒコヒコさんもお身体気をつけて。
奥様不在の時はやむを得ないです。デリバリーやスーパー、コンビニのお惣菜を活用して、バランスよく召し上がってくださいね。
運転できない…!と思って救急車を呼びました。
牡蠣に当たったときもそうでしたが、二度と経験したくないですよ。
ヒコヒコさんもお疲れ様でした
救急車も流行病を念頭に置いての対応なのですね
お孫さんの反応に思わず笑ってしまいましたが^^;
奥様の一日も早いご回復をお祈りしております
奥様のお苦しみが伝わってくるようです。
ヒコヒコさんもよく対応されました。お疲れ様です。
早期のご回復をお祈りいたします。
女性は痛みに強いといいますが、そうとう我慢なさっていたのではないでしょうか。
流行病のことやご家庭のことなど色々考えられて我慢なさったのかも。
とにかく入院治療ができてよかったです。
数日間、奥様もご自身の身体第一に養生されますように。
回復して都市伝説が笑って語られますようお祈り申し上げます。
入院されるまで、奥様はさぞ不安だったことと、お察しします。痛みだけでなく、こういう時は想像力が余計な働きをしますからね(-_-)
ヒコヒコさんも、奥様不在中くれぐれも健康に留意し、無理されませんように。
奥様の一日も早いご回復をお祈りしております。
お陰様で無事に退院できました。
妻の場合は、あと少しで膀胱に落ちる段階だったそうです。
入院した翌朝には痛みが消失したそうですから、石が落ちたのでしょうね。
他の大きな病気ではなくて安心しました。
コメントをありがとうございました。
私も二度と味わいたくない痛みです。
女性は基本的に痛みに強いと言われますが、流石の妻も今回ばかりは参ってしまったようです。
妻の不在により、食事はまあ何とかなるとして、結構大変だったのは洗濯や掃除でした。
普段、洗濯機など触ったりしませんので、さて、どうするんだっけと悩むことしばし。
実に久しぶりに洗濯物を干したりと、短期間ながら主夫業に就いた次第です。
まあ、それはそれで新鮮でしたが、やはり慣れないことはするものではありませんね。
柔軟剤の量を間違えたり、干し忘れがあったり。すべてが終わった時にはぐったりでした。
コメントをありがとうございました。
ご経験がおありなのですね。仲間がいて何だか嬉しい?!気分です。
私は会社帰りに、駅の改札口前で突然の激痛に襲われました。
あの時はその場から一歩も動くことが出来なくなってしまいました。
何が何だかわけが分からず、ただ顔面蒼白(おそらく)、脂汗タラタラだったと思います。
しかし、そこは根性でどうにか家までたどり着いたのですが、そのあとは七転八倒の苦しみ。
救急車を呼ぶ前に、一応鎮痛薬を飲んでみたら、これが何と効果ありで、しばらくすると痛みが治ってしまいました。
翌日病院へ行きましたが、やはり「尿管結石」とのこと。腎臓にはまだ小さな石があったようで、再発の可能性を指摘されましたが、それ以降同じ症状は出ていません。
爆弾を抱えているようなものですね。怖い怖い。
コメントをありがとうございました。
救急車や消防車、パトカーなどの緊急車両が大好きな孫は4才です。
後から嫁に聞いたところ、目がキラキラ輝いていたそうです。
「今度は消防車が来ないかなあ」と言ったとか。
それだけは勘弁して欲しいものです。
コメントをありがとうございました。
お陰様ですぐに退院することが出来ました。
家に戻ってからは、まるで嘘のように家に中を動き回っています。
私の掃除や洗濯が気に入らないらしく、やり直しておりました。
(クソっ!)
と心の中では思いつつも、どこか安堵している私でした。
コメントをありがとうございました。
男には出産の痛みは耐えられないとか申しますが、普段から痛みに強いと自負していた妻が、あのようになったのには正直驚きました。それほど、この尿管結石の痛みは酷いものなのです。私も一度味わいましたので、よおお~く理解できます!
今回幸いにも大病院の診察券を持っていたことで、そちらへ回してもらうことが出来たのは幸いでした。そうでなければ、さらに遠い場所にある休日診療の病院へ回されるところでしたから。
お陰様ですぐに退院できて、今は元気に動き回っております。
妻は私に比べると、石が出来るような食生活などはしていないはずなのですが、分からないものですね。
コメントをありがとうございました。
親父の度々の入院で、面会が一切できないことは知っていましたので、妻に入院されるとどうなるだろうと心配でした。
妻に会えない状況で、唯一の通信手段はメール。あれこれと妻から指示が飛んできます。その細かな指示に対応しながら、我が親父の面倒をみたりと、ハードな時間を過ごしました。
何事もなく平穏な日々の大切さを、今回改めて教えられた妻の入院でした。
コメントをありがとうございました。