セーター顛末記  親不孝な兄妹の物語
妹が親父に着せようと、セーターを買って来た。
秋らしい装いの高級感溢れるセーターだ。実際、お値段も相当よろしかったらしく、
「もう少し安いのにしておけば良かったかな」などと、本心かどうか分からないことを口にしていた。
だが、本当の後悔、いや、悲劇はこの後にやって来た。
妹が早速親父にセーターを頭から被せたのだが、なんと襟首の周りが狭くて、頭が入らない。
確かに親父は顔も頭も大きい方だ。だが、このところの脱水症状で、きっと痩せただろうという妹の読みは見事に外れてしまった。
大枚叩いた妹と、頭の上しか入らない親父の二人は途方に暮れていた。
そこへちょうど私がやって来たものだから、二人で私の顔や頭をジロジロと眺め始まった。
何やら不穏な気配にたじろぐ私。
いったいどうしたと妹へ尋ねると、かくかく然々と今までの説明を受ける。
「だからこのセーターをヒコヒコへあげようかと思うのだが、ヒコヒコも頭が大きいから無理だろうなあ」と訝しそうな口ぶりだ。

話は変わるが、我が家系は代々頭や顔が大きく、親父の兄弟も皆その流れを見事なまでに汲んでいた。その中でも特に親父は大きくて、さらにその血を受け継いだ私などは、将来を約束されたようなものだった。
小学生の頃などは「仮分数」などという有難くないあだ名までつけられたほどである。
そのせいだろうか。未だに「こけし」を見ると、気持ちが切なくなるのはそのトラウマかも知れない。

話を元に戻そう。
妹の疑いの目にムッとした私は、そのセーターを受け取ると、その場で被って見せた。
(ストン)
見事に何の抵抗もなく、セーターは私の頭、顔をくぐり抜け、見事に体に収まった。
驚く妹が発した言葉は意外にも
「ヒコヒコが着れるなら、じい様も大丈夫かも」だった。
「そんな筈がない」
私の反論を無視するようにセーターを剥ぎ取ると、今ようやくベッドへ横になったばかりの親父を引き起こし、ほとんど無理矢理と言っても良い勢いで被せ始まった。
「イデデデデッ!」
親父の悲鳴。
「目、目、め、メっ、目に入ったぁ!!」
襟首のところが、ちょうど目の辺りで止まってしまった。それをさらに入れようとする妹の暴挙に
「やめろぉ」と親父の断末魔。
「頭の形が悪いのかなぁ」
親父の悲鳴など関係ないように呟く妹。

二人から少し離れたところでその様子を見ていた私だったが、セーターの襟首から薄くなった頭のてっぺんだけを出して蠢いている親父の姿に
(何かに似ているなあ)と私。
結局、そのセーターを貰った私は帰り道でハタと気がついた!
(バトミントンの羽根だ!)
こんなに気分がスッキリしたのは久し振りだった。

コメント

しゆい
しゆい
2020年10月26日12:30

あーはっはっは!(2回目)
「バトミントンの羽根だ!」には笑いました。キレーに落ちがつきましたねぇ。

お父様も相変わらず災難でしたね。ですがお父上ファンは喜んでいます。
昼日中笑えるネタを提供いただきましてありがとうございます!
お父様の具合も上向きになりますよう、日々お祈りいたしております。

まるこ
2020年10月26日12:42

あはは‼️
ヒコヒコさん。ありがとうございます。
どんな良薬より効果のある笑の数々。しかし「仮分数」とあだ名をつけたご学友の知的センス。私が笑点の司会者なら、間違いなく座布団一枚差し上げます。笑。
お血筋で頭が大きいと言う事は、皆さん過分に脳味噌が詰まっていると言う事で。ヒコヒコさん御一族の優秀さが伺えますね。
しかし、お父様。悲劇でしたね。笑。なんとも妹さんの荒業が炸裂。妹さんが大枚はたいてお買い求めになったセーター、なんとしてもお父様に着せたい一念が伝わって参ります。笑。
それにしても目の所で止まってしまう悲劇!喜劇?お父様の叫び声が聞こえてくるようです。それをシャトルに喩えるとは!なんたる事でしょう。笑。
しかし我が身を振り返った時、父に無理強いして「背筋矯正ベルト」を装着させた事を思い出しました。嫌がる父を一喝して、母と2人で「これで正しい背筋になれば腰痛も楽だから!」と。笑。そんな私が酷い側湾症であり、今後腰痛に苦しむなどと知る由もない時分でした。罰当たりでした。

梅子
2020年10月26日18:44

バトミントンの羽根の画像を見て
先にオチにたどり着いてやろうと思いましたが
斜め上の結末に脱帽爆笑しました
座布団5枚!!

ヒコヒコ
2020年10月26日20:22

待花。さま
昼日中から失礼しました。
我ら兄妹はもしかしたらドSだったのかも知れませんね。
だとしたら親父は災難でした。
妹は早速次のセーターを買いに行くらしいのですが、どうやらVネックにするようです。これならどんなに頭が大きくても、流石に引っかからないことでしょう。

ヒコヒコ
2020年10月26日20:45

まるこ様
こんばんは。「仮分数」のヒコヒコです。
今ならこんなあだ名を付けたりしたら、いじめということになるのでしょうか。
しかし、あの頃「仮分数」と私にあだ名を付けた煎餅屋の息子に、「うまいこと言うなぁ」と尊崇の念を抱いたものです。
今にして思えば、何もかもがのんびりした時代でありました。

頭が大きいことを指摘される度に、脳味噌がいっぱい詰まっているんだと反論したこともあります。
すると敵もさるもの「味噌は味噌でもぬか味噌だべ」とやり返される。
家に帰っておふくろにそのことを告げると
「大丈夫。あんたの子供達は、もっと頭や顔が小さくなっているから」と意味不明の慰め方をしてくれたものです。実際、小顔の嫁さんを貰い、子供達はおふくろの予言通りとなりました。
あ〜あ、また余計な話をしてしまいました!
さて、親にセーターを着せたいという孝行も、こうなってくると親不孝の部類に入ってしまいますね。
まるこさんが苦しんでおられる今の症状は、決してお父上への報いとは思いませんが、我ら兄弟の行為にはきっと天罰が下りそうでございます。

マダムM
2020年10月26日20:48

お父様と妹さんのやり取りが目に浮かびます(^_-)-☆
妹さんの気持ち、分かる気がします。伸びるはずのセーターが伸びない!無理に着せれば絶対に入るはず、お父様の痛みよりセーターの伸びる力を信じたい!!
私は写真を見て「からかさ小僧」を連想しました(笑)
タナボタセーターはシャトルカラーでしたの?

ヒコヒコ
2020年10月26日20:48

梅子さま
座布団5枚、ありがとうございます。
あと5枚貯めると良いことがあるのかなあ〜
梅子さんから高評価を頂けるように頑張ります!

マサムネ
2020年10月27日11:25

某美容整形のCMで頭を某に見立ててタートルネックのクビの部分を上げ下げしたりしてますね(汗) 私も、髪の毛が薄いのでベージュのタートルネックを着たら・・・・・(以下都合により自粛) 話を戻しますが、家の家系は代々男子は腸が弱く、人に物を教えるのが上手、らしいです。

ヒコヒコ
2020年10月27日19:51

マサムネさま
例のCMですね!
最初は意味がよく分からなかったのですが、あとで、あっ、なるほどと。
マサムネ家は代々男子が腸が弱いが教え上手とか。
教え上手は頭が良いということです。
我が家系は代々頭が大きく、気は小さい、ってところでしょうか。
自慢にもなりませんなぁ。

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