親父に付き添っていつもの整形外科へ行く。待合室の中はいつもながらの混みようだ。
席をひとつずつ空けて座らなければならないので、ただでさえ少ない椅子は既に埋まっていた。
若いカップルのように腕を組んでやって来た我々。もちろん親父がよろめくので支えているだけなのだが、その姿に気がついた一人の年配の女性が、ここへどうぞと席を立った。
するとそのひとつ隣りに座っていた若い女性も席を立った。
慌てて私がお礼を言うと、親父も「これはどうも」と言いながら若い女性が座っていた席へさっさと腰を下ろした。
ここはやはり最初に席を譲ってくれた女性の席へ座るべきだろう。いくら若い女性が好きだからといって、人の道に反した行為をしてはならない。齢九十にもなってまだ分からんのかと親父を睨んだが、「わかりません」というような顔をして座っている。
私は年配の女性に何度も頭を下げて詫び、また若い女性にもお礼を言って、待合室の片隅に移動した。
いつも親父を病院へ連れて来る時には、必ずカバンに文庫本を2、3冊入れて来るのだが、この日に限って忘れてしまったことに気がついた。
そうなると私のような活字中毒の人間には、待ち時間がとても辛いものになる。
おそらく今日の混みようでは最低でも1時間以上、下手をすれば2時間以上は待たされるかもしれない。
マガジンラックの週刊誌などは全て持ち出し中だし、さて、どうしたら良いだろう。
待合室の片隅に立ちながら途方に暮れていたら、壁に様々なポスターが貼られていることに気がついた。
仕方がないので、それらを一枚ずつ順番に読んで行くことにした。
やはり新型コロナウイルスに関するものが一番多かったが、その中で私の目を引いた一枚のポスターがあった。
それは様々な魚の絵と、その魚に含まれているDHAやEPAの含有量が記されたものだった。
DHAやEPAについては、今更説明する必要もないだろうが、簡単に言えば我々の身体に必要な必須脂肪酸というものである。
特にこれらは青魚に多いと言われているし、私もそうだと思い込んでいた。ところがこのポスターをじっくりと見ていたら必ずしもそうではないらしい。
例えばDHAの含有量が一番多い魚は、本マグロのトロで100g中2877mgとある。その次が真鯛で1830mgだ。さらにブリの1785ミリグラムと続く。そして青魚の鯖が僅差の1781mgで続く。
今度はEPAだ。流石にこちらは真鰯が一番多く100g中に1381mgとなっているが、何とその次が本マグロ(トロ)の1288mgではないか。驚きの本マグロが再登場、それもトロである。
以下、鯖(1214mg)、真鯛(1085mg)、ブリ(899mg)と続く。
何だ、結局青魚ばかりではない。むしろ高級魚や値段の高い部位にそれらが多く含まれていることが分かってきた。
ここで私の深読みが始まる。
これはつまり、高級魚にこそそれらの成分が多く含まれているのだが、私のような貧乏人には毎食取るのは無理だろうから、安い青魚を食べていりゃ良いんだよ、ということか。
確かに毎食、本マグロのトロを食していたら破産してしまう。どなたかは知らないが、我が家の家計を心配してくれたんだね。ありがたくて鼻水が出る。
結局、この後1時間少々待たされて、点滴に40分ほどかかり、病院を出た時にはだいぶ日が傾いていた。
「ちょっとスーパーに寄って行きたい」
助手席の親父にそう言うと、近くのスーパーマーケットに立ち寄った。
鮮魚売り場には本マグロも並んでいたが、当然のごとく金額が一桁違う。ここはやむなくマグロの赤身を購入。それでも頭の中にはDHAとEPAの6文字が渦を巻いている。
ところで後から分かったのだが、マグロの赤身にはそれらの成分がとても少ないらしい。
だからトロと表記していたわけだ。
貧乏人の銭失いとはまさにこのことか。
席をひとつずつ空けて座らなければならないので、ただでさえ少ない椅子は既に埋まっていた。
若いカップルのように腕を組んでやって来た我々。もちろん親父がよろめくので支えているだけなのだが、その姿に気がついた一人の年配の女性が、ここへどうぞと席を立った。
するとそのひとつ隣りに座っていた若い女性も席を立った。
慌てて私がお礼を言うと、親父も「これはどうも」と言いながら若い女性が座っていた席へさっさと腰を下ろした。
ここはやはり最初に席を譲ってくれた女性の席へ座るべきだろう。いくら若い女性が好きだからといって、人の道に反した行為をしてはならない。齢九十にもなってまだ分からんのかと親父を睨んだが、「わかりません」というような顔をして座っている。
私は年配の女性に何度も頭を下げて詫び、また若い女性にもお礼を言って、待合室の片隅に移動した。
いつも親父を病院へ連れて来る時には、必ずカバンに文庫本を2、3冊入れて来るのだが、この日に限って忘れてしまったことに気がついた。
そうなると私のような活字中毒の人間には、待ち時間がとても辛いものになる。
おそらく今日の混みようでは最低でも1時間以上、下手をすれば2時間以上は待たされるかもしれない。
マガジンラックの週刊誌などは全て持ち出し中だし、さて、どうしたら良いだろう。
待合室の片隅に立ちながら途方に暮れていたら、壁に様々なポスターが貼られていることに気がついた。
仕方がないので、それらを一枚ずつ順番に読んで行くことにした。
やはり新型コロナウイルスに関するものが一番多かったが、その中で私の目を引いた一枚のポスターがあった。
それは様々な魚の絵と、その魚に含まれているDHAやEPAの含有量が記されたものだった。
DHAやEPAについては、今更説明する必要もないだろうが、簡単に言えば我々の身体に必要な必須脂肪酸というものである。
特にこれらは青魚に多いと言われているし、私もそうだと思い込んでいた。ところがこのポスターをじっくりと見ていたら必ずしもそうではないらしい。
例えばDHAの含有量が一番多い魚は、本マグロのトロで100g中2877mgとある。その次が真鯛で1830mgだ。さらにブリの1785ミリグラムと続く。そして青魚の鯖が僅差の1781mgで続く。
今度はEPAだ。流石にこちらは真鰯が一番多く100g中に1381mgとなっているが、何とその次が本マグロ(トロ)の1288mgではないか。驚きの本マグロが再登場、それもトロである。
以下、鯖(1214mg)、真鯛(1085mg)、ブリ(899mg)と続く。
何だ、結局青魚ばかりではない。むしろ高級魚や値段の高い部位にそれらが多く含まれていることが分かってきた。
ここで私の深読みが始まる。
これはつまり、高級魚にこそそれらの成分が多く含まれているのだが、私のような貧乏人には毎食取るのは無理だろうから、安い青魚を食べていりゃ良いんだよ、ということか。
確かに毎食、本マグロのトロを食していたら破産してしまう。どなたかは知らないが、我が家の家計を心配してくれたんだね。ありがたくて鼻水が出る。
結局、この後1時間少々待たされて、点滴に40分ほどかかり、病院を出た時にはだいぶ日が傾いていた。
「ちょっとスーパーに寄って行きたい」
助手席の親父にそう言うと、近くのスーパーマーケットに立ち寄った。
鮮魚売り場には本マグロも並んでいたが、当然のごとく金額が一桁違う。ここはやむなくマグロの赤身を購入。それでも頭の中にはDHAとEPAの6文字が渦を巻いている。
ところで後から分かったのだが、マグロの赤身にはそれらの成分がとても少ないらしい。
だからトロと表記していたわけだ。
貧乏人の銭失いとはまさにこのことか。
コメント
茶目っ気たっぷりのお父様ですね^^
毎日高級な油の多いトロでは飽きてしまいます
…なんだか浮気した時の言い訳っぽいですが(笑)
相変わらずお父様は枯れないお方ですね!お茶目ぶりがご健在で安堵しました。
診察の待ち時間も点滴の待ち時間も長いですよね。
ヒコヒコさんが珍しく「活字」を持参し忘れたなんて!お疲れ溜まっていますね。
目下、その青魚から抽出したという薬を服用させられております。コレステロールが異常に高いものですから…^^;
ほほう!トロが含有量が多いのですね??しかしそれでは我が家破産ですよ…。
鯖の塩焼き、秋刀魚の塩焼き、ここら辺で折り合いつけますかね??
しかし鮪でもトロは多くて赤身は少ないなんて分かり難いですね??
トロはDHA,EPAが高くても、沢山は食べられないじゃないですか、値段ではなく味の方で!だったら、これから旬のブリなら200グラム食べられる(大好き!)ので、ブリでもいいのではないかしら?
私も父の付き添いは時間がかかりました。予約時間から一時間待ちはざらで、何を質問しているのか診察時間も長い・・・話し相手も疲れます(苦笑)
まったく同感であります。
過日行ってきた函館でも、もっと金銭的余裕があったら美味しいものを沢山食べてこれたのにと思いました(涙)
親父の付き添いでは毎度こんな調子です。
さてさて、一度で良いから「もうトロの顔なんて見たくない」などと暴言を吐いてみたいものです。
無理でしょうけど...
相変わらずと言いますか、或る意味親父は絶好調であります。絶好調が病院通いというのも不思議な話ですけどね。
ところでこの日は親父が急に病院へ行くと言い出し、慌てて出かけたために本を忘れてしまいました。
僅かな時間があればどこでも本を開く私ですが、その本が無いとなると、愛煙家がタバコを切らした時のような禁断症状を呈してしまいます。
兎に角、活字なら何でもいいと目を皿のようにして探し回る訳です。我ながら困ったものです。
さて、今回はマグロのトロにDHAやEPAが多いという話でしたが、油の乗った秋刀魚や鰯も美味しいですよね。この際、含有量は考えないことにしましょう。
いや、マグロのトロの話自体を忘れることにしましょう。知らぬが仏という言葉もあることですしね。
私も電子書籍だけはまだ手をつけていません。
知り合いからとても便利だよと勧められているのですが、紙の感触、インクの匂い、そして本の装丁等々、それらすべてに魅かれるものがあり、当分はデジタルに移行出来そうもありません。
まるこさんへの返信にも書きましたが、マグロのトロの話は忘れようかと。
そこへマダムMさんからブリのお話を頂きました!
いいですね、ブリ!
私も大好きです。寿司では必ず頼みます。値段もトロに比べたらお手頃価格ですしね。
よし、明日からぶりっ子でいきましょう!!
追伸
待つ身は辛いものです。恋も親父も...
小説はやっぱり紙で読みたいですね。
でも、「うっかり忘れた!」時の保険で、
数冊電子書籍にストックしてます。
青魚は苦手なんですが、マグロは大丈夫!!
と思ったんですが、「トロに限る」とは残念。
世の中、そんなうまい話はないもんですね。
正直に言いますと、スマホで漫画を読みました。
なかなか便利なものですね。
漫画だけはデジタル化しようかな、なんて浮気心が芽生え始めましたよ((笑)
紙の本は魅力的なのですが、欠点はその重さです。
私の友人のSは若かりし頃小説家を目指していたのですが、蔵書のあまりの重さに床が抜け落ちて、父親から大目玉を食らいました。
さすがに私はそこまでの蔵書はありませんが、それでも不安になることがあります。
さて、マグロですが、トロだけなんてズルいですねぇ。
大間のマグロの大トロでも頭の中に描きながら、鰯でも齧ることに致しましょうか(涙)