三男坊の「訛り(なまり)」が酷い。しかも本人は訛っているという意識が全くない。
我が息子たちは長男、二男、三男と三人いるが、三男坊だけが何故か訛っている。
なのにヤツだけが東京のそれも文京区生まれなのだ。これではまるでNHKの朝ドラ「あまちゃん」ではないか。
東京生まれ東京育ちの主人公天野アキが、北三陸市に移り住むと、まるで生まれた時からそこに住んでいたかのように馴染んでしまう。もちろん言葉もだ。
今にして思えば、まるで三男坊をモデルにしたのではないかと思えてしまうほど似ているのである。

或る日のこと、三男坊が夕食の後に
「父ちゃん、俺、訛ってっかやあ」と問いかけて来た。
ちょうど読んでいた「女の口説き方」という本を静かに閉じて、
「十分訛っている」と答えた。
「ええっ!そんなはずねえべ」と息子は口を尖らせた。
「お前、耳まで訛ってしまったのか。重症だな」
今度は私が口を尖らせた。
「会社の人だぢがら随分訛ってるねぇと言われだ。どごの生まれって聞がれだがら、オラ東京だって答えだら、みんな目をまん丸ぐしだんだ」
「そりゃあ驚くだろうよ。東京生まれが宮城の人間よりも訛っていたら」
息子は納得のいかない様子で
「捨て子がらも訛っでいるっで言われだ」
捨て子とは前回の日記で紹介した息子の友人である。
「いいか、お前には甥っ子が二人もいるんだから、標準語も話せないと親たちから会わせてもらえないぞ」
親たちとは二男夫婦のことである。
「ええっ、なんでぇ!!」
「何でって、3歳4歳は言葉を一番吸収しやすい時期なんだから、訛りなんかすぐに覚えてしまうんだ。最初に覚える言葉は標準語。その次が方言だ」
「次は英語でねえのが」
うっ、と言葉に詰まる。しかしここで負けてはならじと
「父は幼い頃、青森で育った。津軽弁は世界で一二を争うほど難しい言葉だ。英語よりも遥かに難しいと言われている。アメリカから青森へ留学した学生が、津軽弁を覚えて帰国したため、本国どころか日本のどこでもまったく通用しなかったという話さえあるくらいだ。その難しい津軽弁を父は同時通訳出来る」
息子は首を傾げている。
「つまりだ。英語も方言もレベルとしては同位と言っても良い。だから標準語の次に覚えるのが方言であっても英語であっても構わないということになる」
「なんだが、わがったようなまったぐ分がらないような」
父である私もまったく分からなかった。
「そうだ。毎日少しずつお前の言葉を矯正しよう」
「ええっ、おら嫌だ」
「では最初にお父ちゃんではなく、お父さんと呼んでみろ」
息子は照れ臭そうにニヤリと笑うと
「おどう...」
「余計悪いわ!おどうじゃなくてお父さんだ」
「おどうざん」
「それじゃ今度はお母ちゃんじゃなくてお母さんだ」
「母ちゃん」
「おを取っただけじゃないか。だめだ、もう一回」
「父ちゃん」
「違う」
「かちゃ」
「母さんだ。いや、お母さんだ」
「パパ」
「馬鹿!」
「マミー」
「ふざけるな」
「おら、やってらんねえ」
「あまちゃんか、おめえは!」
「お父さま」
「親を舐めるんでねえぇぞぉ、このワラシ」
「とうちゃんも訛ってるべ」

こうして、現在週一回のペースで「ヒコヒコ訛り矯正講座」を開催している。


コメント

しゆい
しゆい
2020年10月21日18:34

あっはっはっはー(≧∇≦)
親子のやりとり笑えます。途中で「わがんなぐなる」感じといい。絶妙~
あ、「訛り矯正講座」でしたね。宮城弁は親しみやすい、わたしが岩手なもので。
息子さん、耳がいいと良いですね。
ヒアリングさえクリアすれば大方OKですから。

マダムM
2020年10月21日21:30

マイフレンドに一人、下関の訛りが抜けないのが!下関から関東に住みついた同級生が相当数おりますが、皆、何気に標準語です。彼女だけが全く抜けない!!
ご主人は長崎に方で、標準語だし、娘二人も標準語です。
下関の方言、訛りはあまり強くないものです。昔、はとバスのガイドさんに一番向いていると言われてました。方言、訛りが抜け易いから、と言う理由です。
ほら、帰国子女も小学校低学年ではバイリンガルにはなり難いと。きっとお孫さんたちも幼少期に叔父様の訛りに晒されても、成長すればバイリンガルになる可能性は低いと推察されます(笑)
三男さんの訛りも今風に言えば『個性』です。無理に矯正しなくてもいいのではないでしょうか←イチ読者の感想(無責任!)

nophoto
2020年10月21日23:14

なんと、お父様の後継ぎができましたねぇ ヒコ様じゃなくて(笑)
これからはお父様の話と二男さんのお話を楽しみしますね。
だけど素敵な親子の会話です。素敵な息子さんですね。
私の基本(基礎)は出雲弁。今は伊予弁も話しますが、歳を重ねると
どうしても生まれ故郷の出雲弁に戻っていくような気がします。
双方似たような方言があるのですが、もうごっちゃまぜかな。(笑)
パート時に、一緒に働いている40歳の女性と話していたら言われました。
「〇〇さん、気づいてないでしょうが結構出雲弁でてますよ」
あちゃぁ~ やっちまってました。(^^;)
でも自慢です。

nophoto
2020年10月21日23:15

ごめんなさいm(__)m 三男さんでしたね。
大変失礼いたしました。

ヒコヒコ
2020年10月22日0:54

待花。さま
待花。さんは岩手でしたね。
私も仕事で長いこと岩手に住んでいましたので、地元の方々と随分お付き合いをさせて頂きましたが、とても柔らかい方言で包容力を感じさせる温かい言葉でした。
耳まで訛っている息子ですが、ロックバンドを組んでいて、来春にはCDを出すのだとか。
幸いドラムが担当でボーカルではないのが救いです。
訛ったままの歌声なら、コミックバンドになってしまいますからね。

ヒコヒコ
2020年10月22日1:23

マダムMさま
山口市内に友人がおりますが、遊びに行った時、現地の人達の訛りは殆ど感じませんでした。なるほど、マダムMさんのお話を伺い納得した次第です。
また、帰国子女も小学校低学年ではバイリンガルになり難いという説に、僅かながら胸を撫で下ろしたところです。
確かに息子の訛りは「個性」と言えば個性には違いないのですが、少々度が過ぎておりましたため、斯様な騒動となった訳でございます。
まあ、考えてみたら、我が親父の存在がありましたので、隔世遺伝ということもあるでしょう。誰かが引き継ぐという宿命を三男坊が一気に背負ったという見方も出来ます。そう思うと息子が不憫で・・・
いやいや、やはり少しでも矯正せねばと思い直す次第です。

ヒコヒコ
2020年10月22日1:51

庵さま
素敵な息子などと言われると、何とお答えしてよいか言葉のひとつも見つかりません。現在、親父があのような状態ですので、「親父との会話」は「息子との会話」に番組替えとなりそうな気配です。
さて、庵さんは出雲弁を自在に操ることができるのですね。一度ナマでお聞きしてみたいものです。
昔、「砂の器」という映画の中で、出雲地方の言葉が東北のそれと似ているという場面を思い出しました。もしかして庵さんの言葉は、こちらの言葉に近いとしたら、想像するだけで楽しくなります。
誤解の無いように申し上げますが、私は決して訛りや方言を否定するものではありません。寧ろ無形の文化として大切にしなければと思うひとりです。
でもね、やっぱり息子の訛りは、ちょっと行き過ぎでして(汗)

アミ
2020年10月22日7:23

朝から、おなか、よじって笑いました。(^^♪
今日、一日、いいことありそう…。
素敵な親子です❣

ヒコヒコ
2020年10月22日8:52

アミさま
笑っていただけましたか!
それは良かった!!
「笑う門には福来たる」です。
今日1日が佳き日でありますことをお祈りいたします。

まるこ
2020年10月22日11:50

こんにちは。
読書嫌いな私。にヒコヒコさんの日記は私にとって一切の本です。
愉快なお話をありがとうございます。

梅子
2020年10月22日16:15

あははははは(≧▽≦)
三河弁で熱い状態の物を「ちんちん」と言います
「お風呂がちんちん」
もっと熱い状態の事を「ちんちこちん」と言います
これで私は嫁ぎ先の佐賀で一歩離れた扱いを受けました

ヒコヒコ
2020年10月23日10:05

まるこ様
お具合いはいかがですか。
笑いは一番の良薬ともいわれます。
私も決して体調は良くないのですが、毎日一回は大笑い致しましょう!

ヒコヒコ
2020年10月23日10:12

梅子様
それは一歩も二歩も離れた状態になりますわなぁ~!!
こちらでは「ちんちん」は「ちんちん」以外の何物でもありませんぞ。
日本という国の言葉文化の深さを感じさせるお話でした。
大変勉強になりました!

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