朝の雑事が終わり、これからゆっくり朝食を取ろうと思ったその時だった。妹から突然電話がかかってきた。
こんな時間に電話を寄越すのは珍しい。
何となく胸騒ぎを覚えながら電話に出ると、少し上ずった妹の声が聞こえて来た。親父がちょっと危ない状態だという。
とにかくそっちへ行くからと一旦電話を切り、妻に妹から聞かされた話の内容を手短かに伝えると家を飛び出した。
親父はベッドにぐったりと横になっていたが、私の顔を見るなり
「死んじまう〜」と今にも消え入りそうな声で言いながら、虚ろな目を私に向けた。
今回の「死んじまう〜」はどうやら本物のようだ。
おそらく連日の暑さによる脱水と、胃腸障害での食欲不振のために体力が大きく低下してしまったのだろう。
妹と話し合って、何度もお世話になっている病院へ入院させてもらおうということになった。
しかしそのためには、かかりつけのクリニックの先生に紹介状を書いてもらう必要がある。
妹がそのクリニックへ電話をし、事情を説明。早速私が受け取りに行くことになった。
クリニックではすぐに先生と面会することが出来た。話は既に先生に伝わっており、紹介状を書いてもらうことになったが、病院へ看護士さんが問い合わせると現在満床で受け入れが難しいとのことだった。
病院側の話では三日後なら大丈夫だと言うが、そんな悠長な場合ではない。
すぐにでも処置を施して貰わないと危ないと先生に食い下がった。
すると先生が「わかりました」と言って、病院の先生へ直接交渉してくれるという。
それからしばらく私が待合室で待っていると、看護士さんが私の姿を見つけて駆け寄って来た。
「病院へすぐに連れて来てくださいとの事でしたよ」
その一言に胸を撫で下ろしながら御礼を述べた。
やはり先生から直接交渉してもらうのは違うものだなと感心する。
親父の家へ戻ると妹が入院準備を進めていた。
よろめく親父を支えながらクルマへ乗せて、病院へ向かってクルマを走らせる。
外来の看護士さんにも話は伝わっていたようで、最初に採血と心電図、レントゲン撮影を行う事を伝えられ、診察はその後という事だった。
診察も終わり、担当の先生と話をしたが、やはり私の見立て通りの結果だった。
ベッドは満床と言われていたが、外科病棟に空きがあるとのことでそちらへ入れてもらう事になった。クリニックで言われた満床とは実は消化器科の話だったのである。
『叩けよ、さらば開かれん』とはこの事か。
現在、新型コロナの影響で、入院患者への面会は一切禁止という。それは入院時も同じであり、妹が持って来た着替えなどの荷物は病棟の看護士さんへ渡す事になっていた。
車椅子に乗せられドアの向こうに消えて行く親父を妹と見送りながら、そう言えば朝から何も食べていないことに気がついた。腕時計に目を落とすと午後5時を回っていた。
長い1日だったなあと思った途端、急に腹の虫が鳴り始めた。
「今度はこっちが死んじまう〜」
そう言いながら妹へ虚ろな目を向けると
「ひとりで死ね!」とキツイひとこと。
こいつ、おふくろにそっくりになって来やがった。いや、もしかしたらおふくろが乗り移ったのかもしれないなと苦笑い。
こんな時間に電話を寄越すのは珍しい。
何となく胸騒ぎを覚えながら電話に出ると、少し上ずった妹の声が聞こえて来た。親父がちょっと危ない状態だという。
とにかくそっちへ行くからと一旦電話を切り、妻に妹から聞かされた話の内容を手短かに伝えると家を飛び出した。
親父はベッドにぐったりと横になっていたが、私の顔を見るなり
「死んじまう〜」と今にも消え入りそうな声で言いながら、虚ろな目を私に向けた。
今回の「死んじまう〜」はどうやら本物のようだ。
おそらく連日の暑さによる脱水と、胃腸障害での食欲不振のために体力が大きく低下してしまったのだろう。
妹と話し合って、何度もお世話になっている病院へ入院させてもらおうということになった。
しかしそのためには、かかりつけのクリニックの先生に紹介状を書いてもらう必要がある。
妹がそのクリニックへ電話をし、事情を説明。早速私が受け取りに行くことになった。
クリニックではすぐに先生と面会することが出来た。話は既に先生に伝わっており、紹介状を書いてもらうことになったが、病院へ看護士さんが問い合わせると現在満床で受け入れが難しいとのことだった。
病院側の話では三日後なら大丈夫だと言うが、そんな悠長な場合ではない。
すぐにでも処置を施して貰わないと危ないと先生に食い下がった。
すると先生が「わかりました」と言って、病院の先生へ直接交渉してくれるという。
それからしばらく私が待合室で待っていると、看護士さんが私の姿を見つけて駆け寄って来た。
「病院へすぐに連れて来てくださいとの事でしたよ」
その一言に胸を撫で下ろしながら御礼を述べた。
やはり先生から直接交渉してもらうのは違うものだなと感心する。
親父の家へ戻ると妹が入院準備を進めていた。
よろめく親父を支えながらクルマへ乗せて、病院へ向かってクルマを走らせる。
外来の看護士さんにも話は伝わっていたようで、最初に採血と心電図、レントゲン撮影を行う事を伝えられ、診察はその後という事だった。
診察も終わり、担当の先生と話をしたが、やはり私の見立て通りの結果だった。
ベッドは満床と言われていたが、外科病棟に空きがあるとのことでそちらへ入れてもらう事になった。クリニックで言われた満床とは実は消化器科の話だったのである。
『叩けよ、さらば開かれん』とはこの事か。
現在、新型コロナの影響で、入院患者への面会は一切禁止という。それは入院時も同じであり、妹が持って来た着替えなどの荷物は病棟の看護士さんへ渡す事になっていた。
車椅子に乗せられドアの向こうに消えて行く親父を妹と見送りながら、そう言えば朝から何も食べていないことに気がついた。腕時計に目を落とすと午後5時を回っていた。
長い1日だったなあと思った途端、急に腹の虫が鳴り始めた。
「今度はこっちが死んじまう〜」
そう言いながら妹へ虚ろな目を向けると
「ひとりで死ね!」とキツイひとこと。
こいつ、おふくろにそっくりになって来やがった。いや、もしかしたらおふくろが乗り移ったのかもしれないなと苦笑い。
コメント
お医者差同士の連携は、結構、ものを言います。
ねじ込んで正解でした。
うまく、事が運びますよう、お祈りしています。
まずは、おなかを満たせませ!(^^♪
無事に入院できて、ホッとしました。
面会禁止なのは気になりますが…コロナ対策と言われたら仕方ないですね。
お父様が早く良くなりますように。
そしてまた、面白いエピソードを聞かせてください。
脱水症状や食欲不振による栄養不足等は点滴など適切な処置で、回復すると思いますよ。
それよりヒコヒコさんが倒れては大変、くれぐれも無理されませんように。
それはご心配ですね…あのお父様が…緊急入院。
しかし運良く入院出来て良かったですね。今は殆どの病院がコロナの感染防止で面会出来ないようですが、会えないと尚更ご心配でしょう。心中お察しします。
クリニックの先生。親身になってくださって良かった。
受け入れる病院も診療科によって満床とか空きがあるとかの場合はスムーズに融通して欲しいところですよね。かくいう私も外来で緊急入院になり、私の診療科の持ちベッドが満床で眼科の病室へ入院した事があります。
ヒコヒコさんのおっしゃる通りですね。「叩けよ!さらば開かれん」まさにその通りです。お父様のお早いご回復をお祈り申し上げます。
その前にヒコヒコさんご自身どうぞご自愛くださいね。
妹さん。なかなかの毒舌ですね。お優しいお兄様だからこそ言えるのでしょうね。
お母様もきっと見守ってくださっていますね。
お父様!!早く良くなってお戻りください。〜お父様ファンより〜
お父様の状態が上向かれるのを祈らせてくださいね。
まずは大事に至っていないようですが。。。
ヒコ様のねじ込み方がひっしだったことでしょう。
食い下がることは大事ですね。大事な親のことですから
妹さん、安堵からの一言だったと思いますよ。決して心中穏やかではないのだから。
年齢もありますお大事になさいますように。
やはりお医者さんの間には色々あるのでしょう。
特に同じ学閥だったら尚更ですね。
今回は短い期間でしたが、お陰様で無事に退院致しました。
帰宅してすぐに冷蔵庫を開け、ビールを美味そうに飲んでいましたよ。
やれやれです。
一度も面会出来なかった入院は今回が初めての経験でしたが、お陰様で無事に退院出来ました。
入院したその日の晩に親父から電話がかかって来ましたが、点滴が効いたのでしょうか。
あの力の無い声が嘘のように、いつもの声に戻っていました。医療の凄さを改めて実感したものです。
さて、帰って来たら帰って来たで介護が大変なのですが、とにかく頑張ります!
色々とご心配をおかけしましたが、どうにか無事に退院することが出来ました。
退院しての第一声が「飯が不味かった!」ですから、まあ元気になったということでしょう。
このところの暑さと疲れで、私も少々グロッキー気味ですが、大好きなかき氷を食べながら頑張っております。
ご心配をおかけしましたが、今回は僅かな期間で退院することが出来ました。迅速な対応が功を奏したのだと思っています。
私がまだ小学生だった頃です。
深夜に高熱を出した私を背負い、病院の玄関を叩いて先生を叩き起こし、噛み付かんばかりの勢いで「診てくれ!」と大声をあげていた親父をふと思い出しました。
今、巷で流行りの「倍返し」ならぬ「恩返し」をする時期になったのでしょう。
痩せ細った親父を見ながら、そんなことを思っていました。
ご心配をおかけしましたが、無事に退院することが出来ました。
先生からもこれからは少し早めに病院へ来るようにアドバイスされましたが、確かにその通りです。親父にもそのことをよく言い含めました。
今年はいつもの夏より残暑が厳しいですね。
私も気をつけますが、待花。さんもご自愛ください。
度々ご心配をおかけしておりますが、無事に退院出来ました。
年齢も年齢なので毎回これが最後かとハラハラしていますが、見事復活してみせるところがいかにも親父らしいと思います。
今回の入院騒動では、運が良かった部分も多々ありました。最初に紹介状を書いてもらったクリニックも、もう少し遅ければ診察が終了していましたし、外科病棟に空きがあったのも幸運でした。
それにしても、毎回冷や汗ものです。
実を言うとおふくろの影を感じないわけではありません。が、しかし、その度にまだ早いよと心の中で待ったをかけている私です。
一番恐れていたのはお盆の頃でしたが、幸いにしてその頃は親父も今回ほど酷い状態ではなかったので、おふくろも連れて行くことは出来なかったのでしょう(笑)
そもそも親父の家系は長寿でありまして、きっと親父もそうに違いないと信じております。
今年の猛暑は、新型コロナのお陰で、マスク着用もしなければならず、高齢者にとっては、いつも以上に厳しい状況ですね。熱中症で搬送される数も、新型コロナ以上です。ヒコヒコ様も妹さんも、本当に親思いで、お父様は、幸せですね。ヒコヒコ様の
お父様に対しての愛情、優しさが伝わってきます。
今回のように、上手く連携が取れたのも、幸運でした。
ビールが美味しいと仰るぐらいですから、まだまだ、長生きしていただかないとね。
コメントの返信を、読んで、ヒコヒコ様の対応、流石だなと感心いたしました。見習いたいです。
ヒコヒコ様も、十分、体調にご自愛下さい。
いつも拙文をご覧いただきましてありがとうございます。
また、お褒めの言葉を頂戴し、ただただ恐縮しております。
自分ではさほど親孝行だとは思っていないのですが、母親への親孝行が叶わなかったという後悔が、せめて父親には悔いのないようにしたいという思いがあることは確かです。
お陰様で病院から退院しましたが、ほぼ毎日のように整形外科や消化器内科などのクリニックへ連れて行っています。
人は歳を取るに連れ段々と子供に戻るのだとか。親父もその例外ではなく、わがままが次第に強くなって来ましたが、心の中では反発しながらも、今日も親父の手を引いて歩いております。
一読者さまも残暑厳しい毎日ですが、ご体調にはくれぐれもお気をつけください。