生き物の死にざま
今年も気がつけば9月になってしまった。しかし、気持ちがそれに追いつけない。
自分の感覚的には猛暑の夏から未だ抜け出せないでいる。それを順応性の低下と言われてしまえば、返す言葉が見つからない。
さて、今年は平成が終って、令和という新しい時代を迎えた記念すべき年だが、私の中で変わったことと言えば読書量の低下くらいだろうか。
もう十数年に亘り、購入した本や読んだ本をデータベース化しているのだが、改めて見直してみたら2008年がピークで、この年は460冊を読んでいた。その後、徐々に減り始めて、今年はこの8月末で140冊余であった。
ちなみに2008年は8月末までに212冊を読んでいるから、その時に比べると3割強もダウンしたことになる。
まあ個人的なことなので、皆様にはそれがどうしたと言われそうだが、自分の中で薄々ながら気が付いている集中力と気力、体力の低下が数字に現れたとものと、気落ちしている次第である。
それでも本の渉猟が止められないのは、読書欲よりも惰性が身体に沁みついてしまったからだろう。
さて、そんな私が最近或る一冊の本に出会った。そして久しぶりに心を揺さぶられる経験をした。その本のタイトルは「生き物の死にざま」という。
この本で紹介している生き物とは、虫や魚や小動物に鳥など様々だ。それらの生き物の最期の姿が記されているのが本書だ。
例えば石の下などによくいる「ハサミムシ」。
石を取り除くとハサミで威嚇してくるものの、逃げようとはしない。
その傍らには産みつけられた卵がある。彼女はその大切な卵を守るために、逃げることなくハサミを振り上げるのである。
親が子を守るということであれば、珍しい話ではないが、昆虫が子育てをすることは極めて珍しいのだそうだ。この時、父親のハサミムシは既に行方が分からないのだが、そのため卵を守るのは母親の仕事になるわけだが、ハサミムシの母親は、卵にカビが生えないようにひとつひとつ順番になめたり、空気に当てるために位置を動かしたりと、丹念に世話をするのだそうだ。
ハサミムシの卵が孵る期間は40日以上、場合によっては80日という観察結果があるというが、その間、片時も離れずに守り続けるという。
さて、私がこのハサミムシに心を打たれたのはここからである。
ようやく卵から孵った子供たちは、当然ながら餌を獲ることが出来ない。
空腹の子供(幼虫)たちは甘えるように母親にすがりつき、そしてその身体を食べ始めるのである。
だが、母親は逃げる素振りも見せない。むしろ子供たちを慈しむかのように、腹の柔らかい部分を差し出すのである。
この時、石をどけようものなら、母親のハサミムシは自らが食べられながらも、ハサミを振り上げるという。これが母親というものなのか。

こういった生き物たちの最期の姿が、この本には収められている。そのどれもが切なく、そして死が決して終わりではないことを教えてくれる。
もっと紹介したいところだが、あとは是非手に取って読んで頂きたい。
私はこの本に書かれたそれぞれの生きざまに、読んでいて涙を禁じ得なかった。生き物たちはみな、次に命を引き継ぐために、命をかけて生きているのである。
情緒的な文章がそれら生き物たちの「生きざま」を美しく浮き彫りにする。
この秋、お勧めの一冊である。

「生き物の死にざま」 稲垣栄洋:著 草思社

コメント

アミ
2019年9月6日14:52

素晴らしい!
まだ、脳がお若い証拠ですね~。
私は、年々、読書量が減る一方です。
読みたい気はあるのですが、途中で投げ出してしまって…。
老いると言うのは、こういう事なんですね!(-_-;)

まるこ
2019年9月6日15:42

読書嫌いの私としては恐るべし数字です。ヒコヒコさんは読書、日記仲間さん達もハンドメイドやお菓子作り、コーラスや寺院巡り、散策やサイクリング。皆さん多岐に渡りご趣味を堪能されていますね。私は抜け殻みたいな怠惰な日々を無駄に過ごしておりました。生き物の死に様。私も生き物であり最後が来ます。いまわの際に何を?
ビル群の中の病院の狭い空を見上げ、ふと考えました。

マサムネ
2019年9月6日22:47

カマキリのオスも交尾の後に次世代の栄養になるように、食べられてしまいます(涙) もし、カマキリに生まれていたら、私はもうこの世にいないですから・・・・。

ヒコヒコ
2019年9月7日7:17

アミさま
正直に言って、ボケ予防のための読書です。
最近では人の名前がすぐに出てこなくなって焦っています。
首から下は仕方がないのですが、せめて頭だけでも若くありたいと。
今月、またひとつ歳を取ってしまいます。
ため息ひとつ、ですね。

ヒコヒコ
2019年9月7日7:29

まるこさま
アミさんにも書きましたが、ボケ予防のつもりで頭に刺激を与えている訳なのですが、読めなくなって来たこと自体に「劣化」を感じてしまい、案外逆効果になっているかもしれません。
実は一番良いのは、人と会話をする事なのでしょう。そっちの方がずっと刺激を与えることになりますしね。
さてさて、今回の読書では生き物の死にざまでしたが、自分が理想とする死にざまは、
「あれ、そう言えば最近あの人を見ないねえ。どうしたんだろう」と言われるようなこの世の去り方です。
宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の一節。
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ

ちょっと淋しいような気もしないではありませんが、あらゆるしがらみから離れて、未練を残さず、風のようにさっと去りたい。これが私の願望です。

ヒコヒコ
2019年9月7日7:35

マサムネさま
本書ではまさにそのカマキリの雄の最期が書かれてありますが、これは涙無くしては読めません。
雌に見つかると必ず食い殺されてしまいますが、それでも交尾というリスクを選択する。
まさに男の本性を見せつけられる思いです。
ちなみに私は現在も喰われ続けています。

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