某月某日。仕事が早く終わったその日、このまま真っ直ぐ家に帰るのももったいないなと思い、映画でも観て帰ることにした。
平日の夕方、映画館のロビーは人もまばら。さて、何を見ようかと上映中のポスターに目をやる。すると一枚のポスターに目が止まった。
「君は月夜に光り輝く」
さて、これはSF映画だろうか。それともホラーか。
月夜で思い出すのはオオカミ男だ。でもポスターはそんな感じではない。若い男女が楽し気に手を繋いで見つめ合い微笑んでいる。
察するところ、これは青春恋愛ストーリーのようだ。となると私の守備範囲外である。
これはダメだなと他のポスターに目をやろうとしたその時、その映画のヒロインの名前が目に飛び込んできた。
(この間までの朝ドラの子じゃないか)
永野芽郁。「半分、青い」でヒロインだった。テレビで観ていた時と雰囲気が違ったのですぐに分からなかったのだ。
「俺物語」の仙台ロケの際、彼女は我が母校にやって来た。そういうこともあって、以前から親近感を抱いていたのだが、それならば観てみようという気持ちになった。
館内はほとんど空席状態だ。見渡すと若いカップルが数組ほど。女性客も2、3人。そして私。
そこで初めて自分が場違いな場所にいることに気づく。これはもう、映画館の闇に紛れているしかない。私は椅子の中に隠れるように身を屈めた。
館内が減光されスクリーンには本編前のCMが流れ始めた。するとバタバタと一人の中年男性が駆け込んできた。草臥れたスーツに曲がったネクタイ、ビジネスバックを肩から下げて、手にはポップコーンとコーラを持っている。薄暗くなった館内で自分の席を探しながら、次第に私の方へと上がって来た。
やがて自分の席がある列を見つけたようで、横に移動を始めた。それは私の席の4列前。そして偶然にも私と同じ並びだった。
移動するその横顔は私よりも若そうだったが、頭はすっかり薄くなっている。身長もさほど高くはないようで、椅子に腰かけると背もたれから薄くなった頭だけが出ていた。
(君も月夜に光り輝くか…)
せっかくの援軍に対して、どうも私の悪い癖である。そんな言葉が自然に浮かんでくる。
映画は、「発光病」という原因不明の病に侵された余命0の少女まみず。そのまみずのもとへクラスメート達からの寄せ書きを届けに病院へやって来た卓也。
病院から外へ出ることが出来ないという彼女の願望を代行することになってしまった卓也は、その代行体験をまみずへ伝えるのだった。
やがてふたりは互いに惹かれ合うようになっていくのだが、最後の時間は刻々と迫っていた。そしてまみずの命が消えようとするその瞬間に、まみずは最後の代行体験を卓也に託すのだった。
時々、あのオッサンの頭が気になりながらも、最後まで映画の世界にはまってしまった。
いわゆる「病もの」ではあったが、少しだけ若い人たちの感覚に触れたような思いがして、なかなかの佳作だと思った。
エンドロールが終わり、見終えた人たちがそろそろと席を立ち始める。あのオッサンはといえば、エンドロールが終わっても、しばらく画面を見つめたままだった。きっと余韻に浸っているのだろう。その外見には見合わず、なかなか繊細な感性の持ち主なのかもしれない。
するとオッサンは身体を斜めにしてポケットから何かを取り出そうとしている。後ろからなのでよく分からないが、ハンカチを取り出して目元を拭っているようだ。
(もしかして、泣いてたのか)
オッサンの目にも涙。そんなフレーズがまた私の中に浮かび上がってきた。
しかし、そういう私の右手にもハンカチは握られていたのであった。
平日の夕方、映画館のロビーは人もまばら。さて、何を見ようかと上映中のポスターに目をやる。すると一枚のポスターに目が止まった。
「君は月夜に光り輝く」
さて、これはSF映画だろうか。それともホラーか。
月夜で思い出すのはオオカミ男だ。でもポスターはそんな感じではない。若い男女が楽し気に手を繋いで見つめ合い微笑んでいる。
察するところ、これは青春恋愛ストーリーのようだ。となると私の守備範囲外である。
これはダメだなと他のポスターに目をやろうとしたその時、その映画のヒロインの名前が目に飛び込んできた。
(この間までの朝ドラの子じゃないか)
永野芽郁。「半分、青い」でヒロインだった。テレビで観ていた時と雰囲気が違ったのですぐに分からなかったのだ。
「俺物語」の仙台ロケの際、彼女は我が母校にやって来た。そういうこともあって、以前から親近感を抱いていたのだが、それならば観てみようという気持ちになった。
館内はほとんど空席状態だ。見渡すと若いカップルが数組ほど。女性客も2、3人。そして私。
そこで初めて自分が場違いな場所にいることに気づく。これはもう、映画館の闇に紛れているしかない。私は椅子の中に隠れるように身を屈めた。
館内が減光されスクリーンには本編前のCMが流れ始めた。するとバタバタと一人の中年男性が駆け込んできた。草臥れたスーツに曲がったネクタイ、ビジネスバックを肩から下げて、手にはポップコーンとコーラを持っている。薄暗くなった館内で自分の席を探しながら、次第に私の方へと上がって来た。
やがて自分の席がある列を見つけたようで、横に移動を始めた。それは私の席の4列前。そして偶然にも私と同じ並びだった。
移動するその横顔は私よりも若そうだったが、頭はすっかり薄くなっている。身長もさほど高くはないようで、椅子に腰かけると背もたれから薄くなった頭だけが出ていた。
(君も月夜に光り輝くか…)
せっかくの援軍に対して、どうも私の悪い癖である。そんな言葉が自然に浮かんでくる。
映画は、「発光病」という原因不明の病に侵された余命0の少女まみず。そのまみずのもとへクラスメート達からの寄せ書きを届けに病院へやって来た卓也。
病院から外へ出ることが出来ないという彼女の願望を代行することになってしまった卓也は、その代行体験をまみずへ伝えるのだった。
やがてふたりは互いに惹かれ合うようになっていくのだが、最後の時間は刻々と迫っていた。そしてまみずの命が消えようとするその瞬間に、まみずは最後の代行体験を卓也に託すのだった。
時々、あのオッサンの頭が気になりながらも、最後まで映画の世界にはまってしまった。
いわゆる「病もの」ではあったが、少しだけ若い人たちの感覚に触れたような思いがして、なかなかの佳作だと思った。
エンドロールが終わり、見終えた人たちがそろそろと席を立ち始める。あのオッサンはといえば、エンドロールが終わっても、しばらく画面を見つめたままだった。きっと余韻に浸っているのだろう。その外見には見合わず、なかなか繊細な感性の持ち主なのかもしれない。
するとオッサンは身体を斜めにしてポケットから何かを取り出そうとしている。後ろからなのでよく分からないが、ハンカチを取り出して目元を拭っているようだ。
(もしかして、泣いてたのか)
オッサンの目にも涙。そんなフレーズがまた私の中に浮かび上がってきた。
しかし、そういう私の右手にもハンカチは握られていたのであった。
コメント
私の毎朝のルーティン。(朝ドラを見ながら朝食)勿論「半分青い」も観ていました。
丁度母がリハビリ病院に入院中。自転車で通う時「星野源」さんの主題歌を口ずさんだものです。どうやら悲しそうな映画だと番宣で知りましたがヒコヒコさんがご覧になっていたとは。4列前のおっさんも涙する物語、ヒコヒコさんの涙を誘う物語。涙脆い私などギャン泣きです。見るものを決めずにふらっと入ってみるのも良いものですね。余命宣告…。もし私が余命宣告されたらどう過ごすだろう…??漠然と考えましたが、会いたい人に会い行きたいところへ行き、食べたいものを食べることは決定ですが…。有り金全部叩いて残りの命のために使うでしょう。
が!見え透いた私。すってんてんになった時、医師の誤審と判明し、食うや食わずの余生を過ごす羽目になんて事もなきにしもあらずで…。
会津坂下の中田観音(野口英世の母、シカさんが英世の火傷完治の願掛けに夜籠りしたという観音様です)の「抱きつき柱」にしがみつき「長患いしませんように!ポックリ逝けますように!」と願掛けしてきたのも20年近く前。ここらでもう一度行ってみましょうかね??会津暫く行っていないので時間作って行ってみたいです。あ、それに仙台の友人にも会いたいし、石巻のサンファンバウテスタ号にもまた乗りたい。
そろそろみちのくの旅に出ましょうかね??
ヒコヒコさん。その節はどうぞよろしくお願いします。
あらら、おっさんの涙から話逸れましたね。すみません。
他の観客が妙に気になる場合があるのですよね。
ヒコヒコさんの見た男性はどうやら泣いておられた、とのことで
余命宣告モノだときっとわたしももらい泣き状態?
ハマってしまえばハンカチでは足りないと思われます…
朝ドラの主人公をおつとめになったヒロインなら話に入りやすいですね!
〇〇に出ていたイケメン、という見方をわたしもするものですから(笑)
いだてんに出ている野口さん役は「初めて恋をした時に読む話」の
まさし役だったことから思い入れが出来まして見かけるたび
「まさしだ、まさし(役名の漢字が出てこない、ごめんね)」
と盛り上がってしまいます。
映画館に縁のない昨今です。独りで出かけるのもありかなぁ。行けるかなぁ。
「あまちゃん」以降、ほとんどの朝ドラを観て来ましたが、「半分、青い」もビデオ録りで欠かさず観ていました。
やはり毎日観ていると、感情移入してしまいますよね。永野芽郁ちゃん。自分の娘か孫のように思えてしまい、いつも心配しながらTVに食いついていました。
そういえば祖父役の中村雅俊さんは、我が宮城県の出身者。こちらにもつい感情移入してしまいました。
さて、映画の様に余命0宣告をされたらどうしましょうか。好きなことをするにしても、残り時間が0だなんて言われたら何も出来ませんよね。
まあせいぜい皆に手紙でも書いて、好きな音楽を聞きながら読んでいない本を読み、身辺整理をするくらいでしょうか。
世の中には、そういう状態で、物凄いことにチャレンジされる方がいますが、多分というか絶対無理ですねぇ、私は。
それはそうとして、まるこさん。東北への旅をご検討されていらっしゃるようですね。是非、夏の東北へお越しください。東北の夏は、祭りの夏でもあります。
その際には是非お声がけくださいね。お待ちしております。
あのくらいの年齢で泣けるということはとても素晴らしいことだと思いました。いや、本当に。
私もうるっときましたが、あのオッサンほどではなかったかと...。心がだいぶ穢れているようです。
きっと彼も永野芽郁ちゃんのファンだったのかもしれませんね。それとも映画の中に、青春時代を思い出していたのかも。
さてさて、役者さんについて、私も待花。さんと同じようなことはありますよ。
役者も当たり役があったりすると、つい役名で言ってしまったりしますよね。
私は今でも「あまちゃん」の「のん」のことを、「あき」と呼んでしまいます。ちなみに宮本信子さんは今でも「なつばっぱ」です。