小説 アルキメデスの大戦
そういえば、必ずクラスにひとりかふたり数学の出来る奴がいた。数学の時間に先生にあ
てられると、嬉々として前に出て、黒板に数式を書き表していた。それを横で目を細めな
がら見ている先生の顔が今でも忘れられない。
この「小説アルキメデスの大戦」を読んでいるうちに、そんなことがふと思い出された。
原作は同名のコミックだそうで、私が今回読んだのはそのノベライズ版。今年7月には菅田将暉主演で映画が公開されるようだ。
その物語は太平洋戦争へ向かって時代が加速し始める1933年、巨大戦艦こそが日本を救うと信じて疑わない海軍上層部と、彼らが提示した建造見積に虚偽を感じ取った山本五十六などの空母推進派は、ある一人の天才数学者、櫂直(かいただし)に目をつけた。彼の高度な数学力をもって、いかにその見積が虚偽のものであるかを暴こうと目論見たのだ。
しかし彼は民間人。軍の機密事項に触れることは絶対に出来ない。そこで軍人嫌いの櫂をどうにか説得し、海軍主計少佐としての地位を与えたまでは良かったが、いくら櫂が数学の天才とはいえ、巨大戦艦の正確な建造費用を算出するにはどうしても設計図が必要だった。
だが戦艦などの設計図は最高軍機に属するものであり、大艦巨砲主義派の上層部が櫂や山本たち反対派においそれとは見せるわけがなかった。
戦艦か空母か、その決定会議が迫る中、櫂がとった行動は自らが巨大戦艦の設計図を一から作成し、建造費用を算出しようというあまりにも無謀かつ大胆なものだった。
果たして櫂は見積の不正を暴き、巨大戦艦建造を阻止することが出来るのか。
毎度のことながらこれ以上書くとネタバレになってしまうので、書きたい気持ちをぐっと抑えることにするが、この巨大戦艦が「大和」であることは既にお気づきのことだろう。
全長263m、排水量71,659トン、45口径46cm主砲3基9門、60口径15.5cm3連装砲塔2基、40口径12.7cm連装高角砲12基、25mm3連装機銃52基、搭載機7機という世界に類を見ない巨大戦艦だった。
6月23日は沖縄で全戦没者追悼式があったが、大和はその沖縄へ向けて昭和20年4月7日、天一号作戦として出撃、九州坊ノ岬沖で撃沈された。撃沈したのはアメリカ軍の機動部隊、すなわち航空戦力によるものだった。それは山本五十六たちが予見した大艦巨砲主義の終焉の瞬間だった。

櫂直は架空の人物である。歴史的事実において戦艦大和の建造を阻止するという彼の行為が実を結ばないことは最初から分かっていた。その彼がどのように大艦巨砲派を追い込み、そして敗れて行くのか、そこが知りたくて読み始めたこの小説。
これから公開される映画も、そして原作のコミックも読んでみたくなった。

「小説 アルキメデスの大戦」佐野晶(著) 三田紀房(原作) 講談社

コメント

まるこ
2019年6月25日13:17

戦艦大和。祖母の憧れでした。看護師だった祖母は従軍看護師として大和に乗ると心に決めたそうです。が、両親の猛反対に遭い、涙、涙で諦めたそうです。もし、祖母が志しを貫き大和に乗艦していたら…私は今こうして存在しないです。
日本は日露戦争でロシアのバルチック艦隊を破りました。恐らくその経緯もあり巨大艦船最強と考えたのかも知れないですね。その巨大艦船か作られた過程に興味があります。しかも当時日本は零戦と言う実に性能の良い航空機まで限られた資源で作った。物作り日本はその当時から踏襲しているのかもしれないですねー。が、相手には化学と言う武器が。悲惨な原爆を作り上げていたんですね。巨大艦船も零戦も完敗です。しかしどれだけ化学が進んでも兵器に転用するのは言語道断。そんなもの要らない世界が大切だと思います。あらら、小説から逸れました。すみません。

マダムM
2019年6月25日23:30

「空母いぶき」を観に行った時に予告編を見ました。
私は阿川弘之さんの小説が好きで、海軍を題材にした作品も色々読みました。時代は戦艦から空母に代わっているのに、当時の軍部(陸軍)の頑迷な戦略が貴い命とお金を失ったのですね。
昔、父が戦艦大和のプラモデルを作り、棚に飾っていました。
そうそう、「ドリーム」という映画は初期のアポロ計画の時、計算をする係の天才女性の話でしたが、現在と違ってコンピューターが無い時代、ひたすら数式を解いて答えを導き出す。「アルキメデスの大戦」も同じですね。文系の私、理系の秀才には尊敬以外ありません。

ヒコヒコ
2019年6月26日9:29

まるこさま
もし祖母さまが大和に乗艦されていたら、今頃はまるこさんご自身の存在が無かったと知り、人の運命について改めて考えさせられました。
私の親父も実は特攻でして、人間魚雷回天の要員だったのです。まだ十代でしたが、基地のある伊豆の下田で過ごしたそうです。
その後、厚木の航空隊へ異動し、そこで終戦を迎えたとのことでしたが、ほぼ毎日のように米軍機の空襲に遭い、機銃掃射を受けていたそうで、それが爆弾よりも怖かったと言っていました。
或る日の、ちょうど昼食時に空襲を受け、慌てておかずをポケットに突っこんで逃げたそうですが、ひとりの士官が逃げる親父を急に引っ張ったのだそうです。するとそこに機銃の雨が。
もし、その士官が親父を引っ張ってくれなかったら命は無かったと言っていました。もちろん私の存在も無かったわけですが。
兎に角、争いの無い平和な世の中であって欲しいと願うばかりです。

ヒコヒコ
2019年6月26日9:33

マダムMさま
「空母いぶき」の映画はまだ観ていませんが、コミックは最新刊までのすべてを読みました。私も阿川さんの作品は「雲の墓標」など主だったものを幾つか読みましたが、私と同じ鉄道ファンでもあったことで、鉄道関係の本はだいぶ読ませてもらいました。
最近では「お早く御乗車ねがいます」が文庫で発売されたので、早速買って読んだところです。
「アルキメデスの大戦」の中で、大和の設計者と櫂がやりあう場面がありますが、意外なことに櫂が次第にやり込められていく様子が描かれています。
数学は解がひとつ。正しいものはこの世に一つしかないと信じている櫂。しかし、現実の世界にはそうではない場合もある。このドラマの核はここにあったのかも知れません。
そうそう、私もよくプラモデルを作ったものです。戦艦大和は高くて手が出ませんでしたが、巡洋艦や駆逐艦などは結構作りました。親父が海軍だった影響も大きかったと思います。
それにしても数学が出来る人が羨ましい。そういう人には今も畏敬の念を抱いています。

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