苦渋の...
苦渋の...
苦渋の...
久しぶりの秋田出張。
出発した時は、今にも降り出しそうな天気だったが、秋田は見事に晴れ渡っていた。私もだいぶくたびれては来たが、まだまだ晴れ男の効力は残っているようだ。
しかし、そんな天気とは裏腹に、今回の仕事の内容は実に気が進まないものだった。
永年仕事を頼んできた人への契約解除通告だ。要するにクビの宣告とその理由を告げに来たのである。
ただし、一方的にクビを宣告する訳ではなく、一応は相手の言い分も聞く。言いたいことはすべて言わせる。溜まったものを全部吐き出させた上で、こちらの考えを伝えるのだ。それが私のやり方である。
実はもうだいぶ以前から、彼には幾度となく指導・勧告、そして改善依頼をしてきたのだが一向に良くならない。それどころか益々悪い方向へと突き進んでいく。
業務にも支障を来すようになったし、第三者まで巻き込み始めた。さすがにそうなると放置しておくことは出来ない。
私とは二十年来の付き合いだったが、契約解除という苦渋の決断をしたのだった。

テーブルを挟んで私の説明を黙って聞く彼は、今まで見たこともない虚ろな顔をしていた。年齢だって私とほとんど変わらない。今の仕事を失ったら、いったいどうするのか。そう思うと私の方が悔しくなって来た。
(今更、そんな呆然としたような顔をするなよ。そんな顔を見せるくらいなら、何故こちらの言うことを聞かなかったのか)
説明をしているうちに、次第に腹立たしさが込み上げてきた。
私の説明に異論はないということで話は纏まった。
彼は席を立って頭を下げると、私に背を向けて歩き始めた。
「長い間、お疲れ様でした」
その後ろ姿に、そう言葉をかけるのがやっとだった。
去って行く彼の頭は白いものが多かった。二十年前に初めて会った時は、まだ黒々としていたことを思い出す。人のことは言えないが。

帰りの新幹線まで時間があったので駅前を散策する。
千秋公園のお濠には蓮の花が咲き始めていた。これから、この広いお濠一面を真っ赤な蓮の花が埋め尽くすのだろう。でも、自分は蓮の花を見るたびに今日のことを思い出すかもしれない。
またひとり戦友を失った日だった。

コメント

マダムM
2019年6月14日9:57

お疲れ様でした。

まるこ
2019年6月14日12:51

お仕事とは言え、気の重い任務でしたね。
ヒコヒコさん相当お疲れになったでしょう。
誰かがやらねばならない仕事とは言え。酷な宣告ですもの。
お疲れ様でした。
蓮の花に罪はないですから、どうぞ苦い思い出を重ねずに、純粋に綺麗で神秘的な蓮の花を楽しんで頂きたいです。

アミ
2019年6月14日13:45

辛いお仕事でしたね!
主人をはじめ、殿方の仕事を見ていると、なんて、厳しい世界なんだ…と、思います。
私など、呑気な主婦稼業。
文句言ったら、罰が当たりますね!

モネのように素敵な写真です~♬

ソウカ
2019年6月14日14:56

心か体か、何かしらのご病気があるのかもですね。
重たいお役目、お連れ様でした。

しゆい
しゆい
2019年6月14日16:53

再三伝えても変わらない仕事ぶりのひとって
どこにもいるらしいですね。思い出します、前夫さんみたい…
世の中、順応できた者だけが前進できるしくみなのに、って思います。

nophoto
2019年6月14日22:45

ヒコ様 心身ともにお疲れ様でした。
今の若い人は・・・でもないんですよね。
人は難しい。。。週明けからパートが始まります。
注意の仕方が難しくなって、「それ、さっき言ったよね」
という言い方をしてはいけないそうです。じゃぁ
「さっき、言いましたよね」と、丁寧に言うのは?と聞くと
それもいけないと。 じゃぁ一体どのように注意をすれば???
その答は、なんどでも丁寧に説明するんだそうです。
昔人間の私は蕁麻疹がでるので予防薬を飲んでいきます。
パワハラ防止に関するポスターを私の背中に貼ってお仕事しなきゃ。

ヒコヒコ
2019年6月15日9:48

マダムMさま
はい、疲れました。最近、一番です。

ヒコヒコ
2019年6月15日9:54

まるこさま
これも上にいる者の役目と思います。
ハスの花を見ているうちに芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を思い浮かべてしまいました。
振り返ると、今回契約解除した彼も、過去には色々と私を助けてくれた事も少なからずあったのですよ。どうしてこうなったのか彼の心うちは分かりませんが、人はいつかは別れるものなんだと改めて思った次第です。

ヒコヒコ
2019年6月15日9:58

アミさま
それで給料を貰っているのですから、仕方がありませんね。楽しいばかりの仕事はないと思いました。
しかしながら主婦業だって大変だと思いますよ。妻を見ているとそう思うことがあります。
私が逆の立場なら、主婦業は無理かもしれません。いや、ホントに!

ヒコヒコ
2019年6月15日10:05

ソウカさま
配偶者もなく、一人暮らしと聞いていました。体調も良くはないと言っていたことがあります。
私もそのことは気になっていましたが、彼の口からは一切の弁解はありませんでした。
残念ですが規則に法って処分するしかありませんでした。本心を語らなかったのは、彼のプライドが許さなかったのかもしれません。

ヒコヒコ
2019年6月15日10:17

待花。さま
変わらない、いや、変われない。もしかしたら自分もその一人かもしれません。
でも、なんとか順応?しているのかな、自分は。

ヒコヒコ
2019年6月15日10:29

庵さま
私も日頃それは感じています。人を注意するのって、とても難しいですね。
流石に蕁麻疹になるようなことはありませんでしたが、注意する際は褒める時以上に気を使います(褒め方も案外難しいのです)。
今は少しでも上から目線を感じさせるような指示や注意をすると、反発されてしまうようです。特に若い人にその傾向が強いようですね。すぐにパワハラと言われてしまうかもしれません。
まことに生きにくい世の中になりました。

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