賢治さんのクッキー
賢治さんのクッキー
盛岡市内を流れる北上川。その畔に光原社という民芸品等を扱う店がある。この店の名付け親があの宮沢賢治だ。
宮沢賢治が生前唯一の童話集「注文の多い料理店」を出版したのがこの光原社である。
この店の創業者及川四郎が花巻農学校の教師だった宮沢賢治を訪ね、膨大な童話の原稿を預かったのだが、この原稿にあったのが「注文の多い料理店」だと言われている。
二人はもともと盛岡高等農林学校の先輩後輩の間柄だったらしい。意気投合した二人は、童話のタイトルや光原社という社名について熱く語りあったようだ。
さて、私はそんな光原社へ盛岡を訪れるたびにほぼ毎回のごとく訪問している。現在は賢治の頃のような出版事業は行ってはいないが、民芸品や南部鉄器、陶器、漆器、ガラス製品等の工芸品、さらに岩手県産の食材、衣類等々を取り扱っている。
材木町通りから奥に細長い敷地には、マヂエル館や可否館などがあり、特に私は可否館で、賢治の世界に浸りながらコーヒーを飲むのが好きだ。
ところで「注文の多い料理店」の「序」にはこのような賢治の思いが記されている。
『わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたないでも、きれいにすきとほつた風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびらうど羅紗や、寶石いりのきものに、かはつてゐるのをたびたび見ました。
 わたくしは、さういふきれいなたべものやきものをすきです(以下省略)』
そう、賢治は(さういふきれいなたべものやきものをすき)と書いている。そのきれいな食べ物のひとつが木の実だったのではないか。なぜなら賢治の童話には木の実がしばしば登場する。
そんな木の実を使ったクッキーが光原社で販売されている。それが写真の「くるみクッキー」だ。
甘さ控えめで素朴な味わいのこのクッキーは、光原社のモーリオで販売されている。この日も次々に売れていて、店員さんが在庫確認に追われていた。
パッケージも簡素だし、化粧箱のデザインもシンプルだ。
それではクッキーを食べながら、注文の多い料理店の続きを読むことにしよう。

コメント

しゆい
しゆい
2019年6月11日12:35

賢治さんの詩を味わうとあまりの静謐さに目頭が熱くなります。
「すきとほつた風」などという表現に。

まるこ
2019年6月11日14:13

宮沢賢治。彼に感化され花巻など訪れましたが、ヒコヒコさんのお話を聞くまでその光原社の事を知りませんでした。大層惜しい事をしました。
私自身は「よだかの星」に自分を重ねる日々です。
時間が出来たら又みちのくの旅に行きたいわ。
私は賢治が目標だった「でくのぼう」と言われる事をなんの努力なしに遂げた感がありたす。笑。

アミ
2019年6月11日15:34

朗読の勉強の時、課題作品は「セロ弾きのゴーシュ」でした。
宮沢賢治の作品は、どれも難しいです。(-_-;)

マダムM
2019年6月12日11:10

中高での礼拝の時、校長先生が説教をされる題材として「雨にも負けず」がよく登場しました。国文学専攻でいらしたので、表面的な話ではなく文学としての内容でした。後はカラマーゾフの兄弟、三四郎が多かった。この2冊は興味を惹かれ読みました。「雨にも負けず」は触れていません(-_-;) その他の作品にもご縁がありません。
歌舞伎座のお向かいに岩手県のアンテナショップがあります。クッキー、売ってるかな(^O^)・・・私の読書は物凄く偏向しているようで・・・

ヒコヒコ
2019年6月13日8:54

待花。さま
宮沢賢治独特の表現ですよね。彼の言葉には心を揺さぶられる何かがあります。
「すきとほつた風」という表現に接すると、いかにも賢治らしい言葉づかいだなあと感動しますが、その一方で内に激しさを湛えた表現もあり、例えば
(風景はなみだにゆすれ)とか
(まことのことばはここになく 修羅のなみだはつちにふる)
といったような心の底から突き上げてくる言葉もあります。
そのどちらも併せて賢治ワールドになるのでしょう。

ヒコヒコ
2019年6月13日8:54

まるこさま
次に盛岡を訪れる機会がありましたら、是非光原社へ足をお運びください。とても素敵なお店です。
私も中学生の頃に「よだかの星」を読んで感動したひとりです。なにせコンプレックスのかたまりのような時分でしたから(今もそうですが)、胸にずしんと響きました。
ちなみに「雨ニモマケズ」では、賢治の願望が詩という形で綴られていますが、その賢治がなりたかった「デクノボー」に、なんの苦労もせずになられたというまるこさんには、賢治ファンのひとりとして心から称賛申し上げたいと思います!
私もまるこさんを習い、今後一層努力して完璧なデクノボーを目指したいと思います。

ヒコヒコ
2019年6月13日8:55

アミさま
賢治の作品は、詩も童話も一見難しそうではありますが、或る時ふいに向こうから自分の方へ接近してくることがあります。
さらりと流し読むだけでも私は良いと思っていますよ。

ヒコヒコ
2019年6月13日8:55

マダムMさま
私の元上司が、大の付くほどの賢治嫌いでした。おそらく生き方も正反対だったのでしょう。或いは賢治が偽善者に見えたのかもしれません。なにしろ自分を勘定に入れないことを望んだ人だったのですから。いわば「聖人君子」的なところが嫌だったのかもしれませんね。
でも調べてみると、実際の賢治は聖人君子でも何でもなく、むしろやんちゃでイタズラ好きなワルだったところもあります。
文学というやつは好みの問題ですから一生読まない作家もいますし、私もそういう人はいます。「本」こそ書いた人間の分身。合わないものがあって当然でしょう。それで良いと思いますよ。
偏った読書。私は賛成です。

まるこ
2019年6月13日12:51

ヒコヒコさん。
大いなる誤解がおありな様です。
私は軽く「でくのぼうになりました。」と言ってしまいましたが。
賢治の理想としている東へ西へ北へ南へと人々に為に奔走し、あらゆる事を自分を勘定に入れないという崇高な理想とは全然意味が違います。
私は単純に「木偶の坊」操り人形のように、意思を持たない、愚図な人間という意味です。賢治が生涯をかけて求めた理想とは全然違います。
これは賢治ファンを冒涜する一文でした。お詫び申し上げます。

ヒコヒコ
2019年6月14日0:47

まるこさま
いえいえ、誤解でも六階でもございません。
まるこさんに真剣に受け止められてしまい、小生の拙文、文章力の無さに、ただただ汗顔の至りでございます。
それにまるこさんが「デクノボー」だなんてとんでもない!ましてや操り人形な物ですか!!
自らの明確な意志を携えた、素敵な女性であると普段よりリスペクトしておりました。
そのようなわけでして、これからもよろしくお付き合いのほどをお願い申し上げます。

chiaki
2019年6月15日10:20

「注文の多い料理店」、大好きな作品です。
じわじわと怖さが漂うところが好きです。
宮沢賢治の童話は、童話といっても、
かわいらしいファンタジーではなく
どことなく不気味なイメージを感じるように思いますが、
私はそこが気に入っています。
光原社さん、素敵なところですね。
いつか行ってみたいところリストに加えます。

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