ホテルの暖房がいまひとつ効きが悪いようで、夜中に何度も目を覚ました。
息子も同様だったらしく、寒くて目が覚めたという。もしかしてこのホテル、省エネでも行っているのだろうか。それとも機器の表示がおかしいのか。私もついに完全なる鼻声になってしまったところをみると、表示の方がおかしいと言わざるを得ない。
フロントに問い合わせると、室温は一括管理をしているとのこと。寒ければ申告せよということなのか。であるならば、部屋に個別についているコントローラーに何の意味があるのだろう。それに対する明確な回答は得られなかった。
まあ、要するに顧客サービスよりも経費節減ということなのだろう。

さて、ビジネスホテルの簡単な朝食を済ませた我々は、早朝のピンと張りつめた凍てつく空気の中を、駅へと向かって歩き始めた。
息子の靴擦れは多少良くなったようだが、それでも片足を引き摺るように歩いている。本人は大丈夫というのだが、果たして今日一日もつのかどうか。

郡山市からいわき市へはJR磐越東線と高速バスの2つの方法がある。会議は午前10時からだが、それに間に合わせるためには、JRだと適当な時間の列車が無い。そこで高速バスを利用することにした。
我々が乗ったバスは乗車率が3割程度。およそ1時間半の乗車だが2席分を使用し、ゆったり過ごすことが出来た。
ところで、いわき市は東北の湘南地方と呼ばれるほど温暖な気候で知られる場所だ。駅前に降り立つと、郡山での張り詰めた空気とは異なり、頬に触れていく風がとても優しく感じられる。
10時からの会議にも十分間に合い、ちょうど2時間、正午で終了した。会議が終了してから、地元の担当者とコーヒーを飲みながらの世間話になったが、東北の湘南地方という話題になると
(ここに住んでいる人たちは、他所の土地の気候的厳しさを知らないから、苦労知らずで人が良いとは言えない)云々の話をし始めた。それに対して、同意するわけにもいかず曖昧に受け応えていたが、考えてみたら自分もこのいわき市生まれであることを思い出し、そのことを相手にやんわりと話してみたら
(住んでいる人のことですよ。生まれてすぐに他所へ出た人は違いますよ)と慌てて否定された。
それを聞いて思わず苦笑い。

列車の時間までだいぶあるので、昼食はいわき駅前のラトブにある寿司屋へ入った。ランチタイムサービスは鮪の鉄火丼や海鮮丼など。サンプルを見ると鮪が美味しそうだったので、二人で迷わず鉄火丼を頼んだ。
茶碗蒸しやサラダなどが付いて1000円程は安い。風邪で調子が悪い筈なのに、ペロリと平らげてしまった。

磐越東線は非電化区間である。だから電車ではなく気動車、すなわちディーゼルカーが走っている。そのため電車に比べると振動や騒音が大きいが、それがかえって新鮮であり心地よい。
いかにもローカル線という風情の車窓に、息子が変なことを言い出した。
「オーストラリアで乗った鉄道と同じ風景だ」
その言葉に、思わずホンマかいなと突っ込みを入れたくなったが、真剣な表情の息子に何も言えなくなってしまった。
そういえば今から50年程前、まだ小学生だった私は、親父とふたりでこの磐越東線に乗ったことがある。
おふくろと妹は家に残り、親父と私の夏休みの旅行だったと記憶している。
確かその時は車窓に見える建物や景色について、乗車している間中、ずうっと親父を質問攻めにしていた。(あれは何の建物だ、この標識の意味はなに?等々)あまりに質問するものだから、親父は途中から寝たふりをしてしまった。演技をするとすぐにバレるのが親父だったが、その時のことを親父は今でも話すことがある。
そして今、今度は自分の息子と同じ路線の上で、当時見たであろう同じ景色を眺めている。
考えてみれば、なんとも不思議な話だ。自分の50年後にまさか追体験をしようとは夢にも思わなかった。

地元の中高生でほぼ満員になった列車は、やがて郡山駅のプラットホームに滑り込んだ。
次は仙台へ向かう新幹線へ乗継だ。もうあと少しで出張も終わる。賑やかな学生たちの笑い声の中を、我々ふたりは改札口への階段を上がった。

コメント

アミ
2019年1月29日13:16

親子二人連れ!
ちょっと、羨ましい光景ですよ!

ヒコヒコ
2019年1月29日15:14

アミさま
ありがとうございます。
ただ、現実はなかなか厳しいものがありまして、すべてがうまくとはいかないようです。

マダムM
2019年1月29日18:31

ウチは娘なので息子さんとの関係がピンと来ませんが、お父さんと息子さんの二人旅は例えお仕事といえ、微笑ましい感じがします(幻想あり!)
年を喰った娘は父親にとっては恐ろしいらしい・・・

まるこ
2019年1月30日7:21

まずはお疲れ様でした。
風邪が酷くならないと良いんですけどね…。
息子さんとのお仕事はどんな感想お持ちになったのでしょう??
子供だと思っていた息子さんの著しい成長とたくましさを実感なさったかしら?
むすこさんは改めて父の偉大さを知ったのでは??
父と息子2人ってどんな感じでしょうね??私の父は弟と仕事で北海道へ行くことがありましたが、そこは世間知らずの父。全て弟や先方様におんぶに抱っこだったようでして、帰宅した父は「いやぁ〜ついて行くのがやっとだった」と。笑。
私は母と2人という事が多いですが、親子というより女友達的な感覚になりますけどね。今頃息子さんもヒコヒコさんもどっとお疲れが出ているでしょうね。
ちょっとでもお休み出来る時間があったらゆっくりなさって下さいね。
お疲れ様でした。

ヒコヒコ
2019年2月1日8:12

マダムMさま
コメント返信が大変遅くなりまして申し訳ありません。引継ぎやら急な出張やらの、怒涛のような仕事攻勢に、PCを開く余裕も無い状態でした。週末になってようやく一段落ついた格好です。
息子との出張二人旅は、独特なものがありますね。仕事以外のことについては会話も多い訳ではなく、ぼんやり電車やバスに揺られていることの方が多いような感じです。

『年を喰った娘は父親にとっては恐ろしいらしい・・・』
はい、我が親父と愚妹を普段からよく見ておりますゆえ、よおおく分かります!!
父親と娘の関係も独特なものがありますね、確かに。

ヒコヒコ
2019年2月1日8:23

まるこさま
コメント返信が遅くなってしまったことは、マダムMさんに書いた通りです。申し訳ありません。さらに付け加えるならば、寒さに震えながらの出張は、五十路を超えたこの身には、やはり過酷であったということでしょう。
しばらく体力的ダメージからなかなか抜け出せないでおりました。
期せずして、まるこさんの優しいお言葉に甘えさせて頂くような結果となってしまいました。
お父上と弟さんのお話も、微笑ましいですね。今のところ私と息子に関しては、まだ主導権がこちらにありますが、それも時間の問題でしょう。むしろ一刻も早くそうなってくれることを願っているのですがね。

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