2019年一回目の「不思議草子」。

話は1月3日まで遡る。
私は今年が後厄なので、厄払いのために某神社へ参拝した。仙台ではとても有名な神社である。
基本的に神社への参拝は午前中に行うのが正しいといわれるが、私もそれに倣って午前8時に神社を訪れた。
しかし祈祷開始が午前10時からと知り、2時間ほど時間を潰さなくてはならなくなった。事前チェックが甘かったと悔やむ。
妻も一緒だったので、広い境内を歩いてみたり、長い石段を上り下りして疲れてみたり、或いは出店をひやかしたりと、少しでも時間を潰そうと試みたのだが、それでも30分も潰せない。
結局、寒いからと社務所の中にある待合室へ戻り、ひたすら時が過ぎるのを待った。
ようやく名前が呼ばれたのは10時過ぎ。神官に導かれて昇殿した時には、すっかり身体が冷え切っていた。
この時、私と一緒に本殿へ入ったのはおよそ百名ほどだった。私は最初の方だったので、本殿の最前部、しかもほぼ中央の場所へ座らせられた。
顔をあげると、依代である大鏡が数メートル先に安置されている。少し身体を斜めにすれば、私の姿が映ったかもしれない。そのくらい本殿の中央部に私は座った訳だが、このあと私に生じた奇妙な現象は、もしかしたらそのせいであったのかもしれないと今になって思っている。

神主のお祓いが始まると、私やその他の人たちも頭を下げた。
その頭上に大麻(おおぬさ)が振られ、そして一人づつの名前と願事が唱えられる。それをじっと目を瞑って聞いている。
私と同じように厄払いで訪れた人、一年の家内安全を願う人、志望校への合格を願う人。そして病気平癒を願う人。
みんな願うことは同じなのだなあと、私は耳を澄ませていた。
と、その時である。
閉じていた目の中が、暗黒から薄墨色に変化してきた。そして、その中央部が隆起するような気配を見せ、それがふいに赤子の顔へと変わった。
口を大きく開けて真っ赤な舌が見える。声こそ聞こえないが、泣いている赤ん坊の顔だ。するとさらにその下から、泡が次々に湧き上がるように沢山の顔が現れてきた。先程の赤ん坊の顔は既に消えている。
泡はどれも大人の顔のようであったが、竃で焼く前の、釉薬を塗った陶器みたいにぬらりとしていた。
その間も神主のお祓いの声は続いている。
私に起こった奇怪なその現象もさらに続いた。
大きい顔、小さい顔が、現れては消え、消えてはまた現れる。
もしやこれは、我が身に憑りついていた厄だったのでは。ふと、そんなことが脳裏を掠めた。
しかし、その数があまりにも多過ぎる。流石に私ひとりの厄ではないのではないかと思うようになった。
そしてそれを裏付けるかのように、神主のお祓いが終ると共にすべての顔は消え、私の目の中は再び闇と化した。
この後、大鏡の前で玉串を捧げ、厄除けの儀式はすべて終了した。

帰りの車の中で、今あったことを妻に話すと
「あそこに詣でた人たちの厄が離れたんじゃないの」と言われた。
神様の正面に座っていたから、祓われていくところが見えたのではと妻は言った。
「でも、祓うって、ホコリを祓うのと同じ意味でしょ?だったらまた着くわよねぇ」
だからこそ、毎年お祓いをする訳だろうが、先程現れた無数の顔は、あの参殿に集まった人たちに憑りついていた厄だったのだろうか。
今年も最初から凄いものを見てしまったものだ。
このあと妻と二人で冷え切った身体を温めるべく、ラーメン屋を探してクルマを走らせたのだった。

コメント

マサムネ
2019年1月9日12:32

この間終わったので次は61歳みたいです。 厄年の前の前の年にとっても大変なことがあったので祓ってもらったおかげか、本厄をはさみ三年特に悪いことは起きませんでした。気のせいかも知れませんが、主たる活動地域のパワースポットで心を込めてお参りすると何事もなく無事に過ごせる気がします。どうぞ良い一年になるように願っています。

achara
achara
2019年1月9日12:33

ラーメンの薬味を味わう前に、厄味してしまいましたか・・・わたしはインフルエンザで薬味三昧してました。それにしても節々の傷みがきついのは、老いたる証拠でしょうか、どうかヒコヒコさまもご自愛ください。

ヒコヒコ
2019年1月9日12:49

マサムネさま
私がその61歳で後厄というわけです。
これで大きな厄は一応祓ったことになるので、あとは運任せですね。
ちなみにあるTV番組で言っていましたが、一番のパワースポットはご先祖様のお墓だとか。墓参りを熱心に行えば、それだけで福が来るそうですよ。
どうぞマサムネさんにとって素晴らしき一年になりますように、お祈り申し上げます。

ヒコヒコ
2019年1月9日13:10

acharaさま
新年から親父ギャグが冴えてますね!!
ちなみに親父ギャグが冴えるほど、老化の進行だそうですよ。お互い気をつけましょう。
それにしても、インフルエンザに罹ったとは大変でしたね。もう大丈夫ですか。
私は最近、腰痛に悩まされています。カバンに入れて持ち歩く本の数もだいぶ減らしたのですが悪化の一途を辿っています。

マダムM
2019年1月9日15:11

厄の範疇を脱した私です。
以前聞いたのは「一宮」、各地にありますよね「〇〇一宮」、とても霊力があるらしいですよ。憑きものが付いた時には霊験あらたか、とか。
ヒコヒコさんがご覧になったものが善いものか悪いものかは分かりませんが、神社での対面なら悪いものではないと思いますけど(無責任!)
親父ギャグ=老化? ユーモアじゃないのかしら、勿体無い!!

まるこ
2019年1月9日20:00

ヒコヒコさん。すごい体験ですね。
そういえば私の弟の家を新築した時神棚をしつらえた神主さんが開眼のお祓いに来てくださった時「お宮から鬼が出た」とおっしゃったとか。すぐさまお宮を買い換える様に言われて買い求めたそうです。神主さんのご祈祷ってすごい威力があるのかも知れないですね。ヒコヒコさんが瞼の奥でご覧になったものはその神社で祓い清められた人なのかもしれないですね。これがあくまでも私の考えですが神社でお祓いを受け清められたものは社殿で浄化すると思います。なのでヒコヒコさんに悪さをする事もないでしょう。頂いたお札やお守りを大事になさればヒコヒコさんを守ってくださいますよ。ちなみに我が家は神棚に榊一対お神酒一対、塩、米、水をお供えしています。毎朝お詣りしています。人間誰でも叩けば埃の出る身体ですもの。きちんとお祓いすれば清められますよ!ええ、ヒコヒコさん大丈夫ですって。

ヒコヒコ
2019年1月10日0:49

マダムMさま
「一宮」とはそういうことだったんですね。
その地域の中で最も社格が高い神社なんですね。霊験あらたかということも納得出来ます。
さて、私が見たものは何だったのでしょうか。浮かんでは消える顔も、改めて思い起こせば、苦し気な表情であったような気がします。きっと参拝した人たちから離されて、神力により昇天させられた瞬間だったのではないかと思います。
ところで親父ギャグ=老化現象。これはドクターの発言であります。自分で老化を認めたりなんぞ致しません!

ヒコヒコ
2019年1月10日1:22

まるこさま
弟さんの話も凄いですね。鬼がお宮から出たなんて驚きです。
親父の家にも、結構立派な神棚をしつらえてあるのですが、まさかここには棲んでいないでしょうね。もっとも私らの方が鬼みたいな存在ですから、怖くて出てこれないかも(笑)
昨年から私の身に色々ありましたが、それらの元も今回の参拝で祓われたと思っています。でもすぐに厄が付きそうな気がしますが。なにせ、叩けば埃がたくさん出るような身ですから(笑)

chiaki
2019年1月12日10:29

ご自分の厄だけでなく、他の人の厄も見えてしまったなんて
不思議な体験をされましたね。
私なら悲鳴を上げて椅子から転げ落ちていそうです。
私はあまり厄年を気にしておらず、厄落としのようなものも
一度もしたことがありません。
私の身にはたっぷり厄がついているのかもしれませんね…
だから太る一方なのかしら。

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