青森の夜は、エルマー・T・リーで。
2018年12月11日 エッセイ コメント (4)
Nさんと別れたあと、私に同行してくれたMさんがバーに飲みに行きましょうと誘ってくれた。いつもならカラオケなのだが、お互いに風邪を引いていて声が出ない。かと言って、まっすぐホテルへ帰るのもなんだから、ちょっとアルコールで身体を温めようというわけである。
青森の歓楽街から少し外れにある「バー鬼や」。名前はなんとなく恐ろしいが、優しそうな顔のバーテンダーがひとりで切り盛りしている清潔感のある店だ。
広めの店内には、他に客が3、4人ほど。Mさんと私はカウンター席についた。
私もMさんも好みの銘柄を伝え、ストレートにしてもらう。するとバーテンダーが「ウイスキーの飲み方をご存知ですね」と言うので、なぜと聞き返すと
「日本酒を水で割って飲む人はいませんから。ウイスキーだって同じです」との答え。
スコッチにせよバーボンにせよ、香りも楽しんで欲しいので、そのまま召し上がって頂くのが一番良いと思っているとバーテンダー氏は付け加えた。
風邪で痛めた喉を、ウイスキーが通り過ぎるたびに熱を放つが、そのうちMさんも私も身体から力が抜けていくのを感じた。まさに今日一日の緊張から解放されたという感じだった。
と、その時、Mさんがバーテンダー氏の背後にある洋酒棚に、一本の気になる瓶を見つけた。その瓶を取ってもらうと、Mさんはまじまじと眺め始めた。
「いいね、これ。ラベルの裏側に顔が描かれている」
Mさんはそう言って、私にその瓶を差し出した。
残りがあと1センチも無いその瓶。ラベルの裏側に描かれた肖像画がよく見える。
「エルマー・T・リーですよ。バーボンですが今では貴重品です」
バーテンダー氏の話では、かつてはポピュラーなバーボンとして知られたが、もう日本への輸入予定は無いのだとか。この店でもこれが最後の一本だそうだ。
それならこれも何かの縁とばかりに、瓶の底に残った琥珀色の液体をグラスに注いでもらい、Mさんと私で頂戴した。もちろんストレートで。
それにしても、ラベルの裏側に開発者の肖像画を描くとはなんて奥床しいのだ。
本来この手のものは、俺が作ったんだぞと表側に貼られるはずだが、そうはしなかったのだ。
バーボンが半分も減り出した頃に姿を現し始め、瓶が空になったところで「如何でしたでしょうか」と作者が登場する。
こういう生き方って、なかなか粋ではないか。私も真似をしたくなったが、さて、どこから顔を出せば良いのやら。
Mさんを見れば、その空になった瓶を鞄にしまうところだった。それを見てバーテンダー氏は鬼のような顔になるかと思いきや、ニコニコと仏顔で伝票を差し出したのであった。
青森の歓楽街から少し外れにある「バー鬼や」。名前はなんとなく恐ろしいが、優しそうな顔のバーテンダーがひとりで切り盛りしている清潔感のある店だ。
広めの店内には、他に客が3、4人ほど。Mさんと私はカウンター席についた。
私もMさんも好みの銘柄を伝え、ストレートにしてもらう。するとバーテンダーが「ウイスキーの飲み方をご存知ですね」と言うので、なぜと聞き返すと
「日本酒を水で割って飲む人はいませんから。ウイスキーだって同じです」との答え。
スコッチにせよバーボンにせよ、香りも楽しんで欲しいので、そのまま召し上がって頂くのが一番良いと思っているとバーテンダー氏は付け加えた。
風邪で痛めた喉を、ウイスキーが通り過ぎるたびに熱を放つが、そのうちMさんも私も身体から力が抜けていくのを感じた。まさに今日一日の緊張から解放されたという感じだった。
と、その時、Mさんがバーテンダー氏の背後にある洋酒棚に、一本の気になる瓶を見つけた。その瓶を取ってもらうと、Mさんはまじまじと眺め始めた。
「いいね、これ。ラベルの裏側に顔が描かれている」
Mさんはそう言って、私にその瓶を差し出した。
残りがあと1センチも無いその瓶。ラベルの裏側に描かれた肖像画がよく見える。
「エルマー・T・リーですよ。バーボンですが今では貴重品です」
バーテンダー氏の話では、かつてはポピュラーなバーボンとして知られたが、もう日本への輸入予定は無いのだとか。この店でもこれが最後の一本だそうだ。
それならこれも何かの縁とばかりに、瓶の底に残った琥珀色の液体をグラスに注いでもらい、Mさんと私で頂戴した。もちろんストレートで。
それにしても、ラベルの裏側に開発者の肖像画を描くとはなんて奥床しいのだ。
本来この手のものは、俺が作ったんだぞと表側に貼られるはずだが、そうはしなかったのだ。
バーボンが半分も減り出した頃に姿を現し始め、瓶が空になったところで「如何でしたでしょうか」と作者が登場する。
こういう生き方って、なかなか粋ではないか。私も真似をしたくなったが、さて、どこから顔を出せば良いのやら。
Mさんを見れば、その空になった瓶を鞄にしまうところだった。それを見てバーテンダー氏は鬼のような顔になるかと思いきや、ニコニコと仏顔で伝票を差し出したのであった。
コメント
いい感じのバーだったんですね。いいなぁ。一度そんなところへ行ってみたいです。
ドラマで見る様に知らない人から「あちらの方からです」って感じ。憧れます。
言われてみれば日本酒を割る人は居ないですね。ストレートで味わってこそ本来の味が分かるんですね。含蓄ある言葉です。
ラベルの裏に肖像画。これまたダンディズムを感じますね。
私はラーメン食べてスープまで飲み干した時丼の底に「ありがとうございました」って書いてあるラーメン屋さんを思い出しました。ふむ。次元が違いますね。
お風邪は如何ですか?拗らせない様にご自愛下さいね。
女性と一緒なら、なお美味しくお酒も頂けたのでしょうが、生憎色気だけは昔も今もありません。
でも、たまにはこういう店で、ぼおっと時間を過ごすのも悪くはありませんね。
今回はダンディズムを気取ってみましたが、私もどちらかと言えばラーメン屋で丼の底に現れる文字を楽しみにする方です。
赤坂のじゃんがらラーメンで、3回連続「大吉」を出した時は嬉しかったなあ。
滅多に行かない夫との旅行で、ホテルのバーに行きたいのですが、夕食が済むと夫は即高いびき(怒)何のことは無い、一人いつものテレビ番組を視ています・・・
じゃんがらラーメンは原宿で!太田記念美術館へ行く時の私のコースです(笑)
今度は是非旦那様とこのような機会をお作りください。
私の場合は妻は下戸なこともあって、連れて行こうと思っても、本人が嫌だというので未だ実現していません。
世の中、なかなかうまくいかないものですね。