松谷みよ子さんの本から。
ハナさんは明治二十六年新潟市に生まれ、九十一歳でこの世を去ったが、活発な性質で木登り、水泳、スキー、なんでもござれ、おてんば娘と呼ばれていたという。当時としては珍しく女学校まで出て、生き字引といわれるほど知識欲も旺盛だった。
そのハナさんの仲良しに新潟市学校町の渡辺さん一家がいて、長年のおつきあいだった。渡辺さんは猫が大好きで、五、六匹はいつもいたが、みんなよく人のいうことを聞き分ける利口な猫だったという。
ある日、その中のタマという雌猫が前足に怪我をして戻ってきたが、次の日には姿を消し、何日経っても帰らない。
死ぬときは姿を隠すというから、どこぞで死んでいるのではと案じていると、ひょっこり戻ってきた。足の怪我も治って元気になっている。
「どこに行っていたのタマは。すっかり元気になってよかったね」
渡辺さんはタマを抱きあげて言ったが、タマはニャアというだけだった。
ところが追いかけるように、月岡温泉から、「宿泊料請求書」が届いた。
宛名は「渡辺タマ子様」で、不審に思って宿に問い合わせると、渡辺タマ子様は色白のとてもきれいな女の人で、いつもからだごとお湯には入らず、手だけをひたしていました。ということだった。
猫の湯治ですか。なんだか読んでいて心が和みます。こういう話、好きだなあ。
このほかにも不思議な話が満載で、読んでいると時が経つのを忘れてしまうのです。
「異界からのサイン」 松谷みよ子著 筑摩書房
ハナさんは明治二十六年新潟市に生まれ、九十一歳でこの世を去ったが、活発な性質で木登り、水泳、スキー、なんでもござれ、おてんば娘と呼ばれていたという。当時としては珍しく女学校まで出て、生き字引といわれるほど知識欲も旺盛だった。
そのハナさんの仲良しに新潟市学校町の渡辺さん一家がいて、長年のおつきあいだった。渡辺さんは猫が大好きで、五、六匹はいつもいたが、みんなよく人のいうことを聞き分ける利口な猫だったという。
ある日、その中のタマという雌猫が前足に怪我をして戻ってきたが、次の日には姿を消し、何日経っても帰らない。
死ぬときは姿を隠すというから、どこぞで死んでいるのではと案じていると、ひょっこり戻ってきた。足の怪我も治って元気になっている。
「どこに行っていたのタマは。すっかり元気になってよかったね」
渡辺さんはタマを抱きあげて言ったが、タマはニャアというだけだった。
ところが追いかけるように、月岡温泉から、「宿泊料請求書」が届いた。
宛名は「渡辺タマ子様」で、不審に思って宿に問い合わせると、渡辺タマ子様は色白のとてもきれいな女の人で、いつもからだごとお湯には入らず、手だけをひたしていました。ということだった。
猫の湯治ですか。なんだか読んでいて心が和みます。こういう話、好きだなあ。
このほかにも不思議な話が満載で、読んでいると時が経つのを忘れてしまうのです。
「異界からのサイン」 松谷みよ子著 筑摩書房
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